「偏屈な老人が死に際に人生を見つめ直す作品群は多いが、本作の序盤はかなり秀逸」あなたの旅立ち、綴ります えすけんさんの映画レビュー(感想・評価)
偏屈な老人が死に際に人生を見つめ直す作品群は多いが、本作の序盤はかなり秀逸
広告業界で成功を収めた老婦人のハリエット・ローラーは、何不自由なく暮らしていたが、80代に入ってから孤独と死への不安を感じていた。そこで、ハリエットは自身の訃報記事を生前に執筆することを思いつき、地元の若い新聞記者であるアン・シャーマンに依頼する。しかし、自己中心的なハリエットのことを良く言う人はおらず、理想とかけ離れた原稿を読んだ彼女は、最高の訃報記事には欠かせない4つの条件を満たすため、自分を変えることを決意するのだった。その答え探しを手伝うことになったアンは、性格がまったく違うハリエットとぶつかり合っていたが、いつしか2人の間に芽生えていたのは、世代を超えた友情。そんなハリエットとの出会いによって、人知れず悩みを抱えていたアンの未来も変わり始めていた……(DVD販売サイトより)。
「最高の人生の見つけ方」「ラスト・ムービースター」「ドライビング Miss デイジー」「パリタクシー」など、偏屈な老人が死に際に人生を見つめ直す作品群は多いが(よって、本作もおオチが見えると言えば見えるのだが)、この「見つめ直すきっかけ」がちょっと難しい。映画だから、と言ってしまえばそれまでだが、「そんなことで今までの数十年を見つめ直すかね」と思ってしまうような展開がしばしばある。
その意味で、本作の序盤はかなり秀逸。主人公の孤独で偏屈なハリエットが、薬のちょっとした誤飲が原因で救急車に運ばれるシーンがあるが、BGMや映像でドラマチックに演出されることは一切なく、尺もかなり短く、ただ淡々と、静かに運ばれていく。このシーンがものすごく良い。人を殺すのは病や事故ではなく「孤独」であることを極めて印象的に表現した場面である。
「ザ・キンクス」を筆頭に、50年~60年代のロックにあわせて「いい一日なんて、みじめなだけ」というハリエットの言葉がじんわり来る。