「どんな家族にも訪れる「変化」を描いた物語」はじまりへの旅 天秤座ルネッサンスさんの映画レビュー(感想・評価)
どんな家族にも訪れる「変化」を描いた物語
ホームスクーリングが珍しいことではないアメリカの社会では、極端に考えればこういう家族がどこかにあってもおかしくないかもしれない。森の中で子どもたちを育て教育し心身ともに鍛え上げる。「LIVE」よりも「SURVIVE」をより叩き込むようなその家族の方針は、確かに風変わりに違いないが、その分、知性も体力も一流の超人を産み育てている。しかしこの映画は、そんな彼らの風変わりさを笑ったりするコメディ映画ではないし、彼らが特別な何かを成し遂げるサクセスストーリーでもない。ひとつの少し風変わりな家族を通じて、どんな家族にも必ず訪れる「変化」の時期が描かれていた。
大きなきっかけは母親の自殺で、「今まで通りに暮らそう」という父親の言葉とは裏腹に家族全員に抗えない心の変化を生み出す。そしてそれを引き金に、反抗期を迎えた次男の存在と、巣立ちの時期を控えた長男の存在が、今まで通りの家族像に大きな揺さぶりをかける。でもこういったことって、彼らたち家族だけに起こり得たことじゃなくって、私たちが育った家族の中でも、そしてこれから私たちが築くかもしれない家族の中でも、普通に起こる出来事。風変わりな家族の風変わりな物語に見えて、普遍的な「家族の変化」の様子を、ユニークかつとても正直に描いていて、とても好感が持てたし、後半に進むにつれて、大きく心動かされる部分があった。
やはりこの家族を率いる父親像として、ヴィゴ・モーテンセンの存在は大きな役割を果たした。彼が持つ野性味と、群れを感じさせない一匹狼感、それでいて雄大な度量を感じさせるところなんか、この役柄にぴったり。逆に、ヴィゴ・モーテンセンじゃなくちゃ説明がつかないのでは?と思うほど。彼自身も、この役柄を風変わりな男としてではなく、一人の父親として捉えて演じている様子が窺えるような真摯さを感じ、静かに胸を打つ深い愛のこもった素晴らしい演技を見せてくれていた。
それと・・・。やっぱり男の人は髭を剃ってた方が若々しくなって良いよね(美しい男は特に)というどうでもいいことを思ったりして。