「寓話か、幻か、普遍的な家族愛と人生の物語か」レッドタートル ある島の物語 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
寓話か、幻か、普遍的な家族愛と人生の物語か
スタジオジブリの初海外プロデュース作。
嵐で無人島に漂着した男の数奇な運命を、台詞ナシ、美しい映像と音楽で綴る。
観る前にはしっかり睡眠を取ってから…なんて何処かで紹介され、爆睡覚悟で観たが、大体の概要は伝わってくる。
が、訴えるテーマやメッセージはなかなかに…と言うより、これ、結構な怪作、ファンタジーとして見ても異色作に思う。
序盤は無人島に流れ着いた男の島からの脱出劇。
さほど食べ物を調達しようとする描写は無く、よくそれで生きられるなぁと思うものの、孤独さや絶望感は伝わる。
何度も何度も筏を作り、何度も何度も脱出を試みるが…。
サバイバルや脱出劇としてはあまりに淡白だし、それにタイトルの“レッドタートル”は…?
何度やっても失敗、島に戻されてしまう。
そんな男の前に現れた、赤い亀。
男は、この亀が筏を壊したとカッとなり、亀を仰向けにして○してしまう。
しかし、罪悪感に苛まされ、亀に海水をかけたりしていると、何とある日、亀が赤毛の美しい女として蘇る…!
やがて女と恋に落ち、息子も生まれ、幸せな日々を送っていたが…。
家族との営み。
暮らしの恩恵。
突然の津波は苦難。
息子の旅立ち。
訪れる死…。
突飛な設定で普遍的な人生を表しているが、これはどう解釈したらいいものか…。
ちょっと残酷でありながらも幻想的で哲学的な寓話と言ったらそれまでだが、自分はこう見てみた。
実は、男は死んでいて、この奇妙な物語は男が死に際に見た幻。
愛する家族を持ち、幸せな生活を送り、人生を全うして…。
または、人間に恋した牝亀の物語。
亀としての長寿を捨ててまで選んだ、人間としての苦難と悦楽。
しかし、人間の生は儚い。
息子は旅立ち、愛する人を亡くし、再び亀となって海に還っていく。
長寿の時の中に、深い悲しみと幸せな思い出を背負って…。
何にせよ、不思議な家族愛の寓話だったら「おおかみこどもの雨と雪」の方がずっと好きだし、「君の名は。」がノミネートされて欲しかった…かな。