劇場公開日 2016年9月17日

「極上のAnimation」レッドタートル ある島の物語 ヨックモックさんの映画レビュー(感想・評価)

3.0極上のAnimation

2016年9月27日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

1年に1本とは言わない。
せめて3年に1本はこんな感じのAnimationを極めたアニメーション作品が出て然るべきなんだ。
美少女が出てきて、壮大な時空を超えた冒険や甘ったるい恋愛劇を繰り広げる大衆に媚びた作品ばかり作られていては、アニメという芸術は停滞し、いつか衰退していくに違いない。尖った、求道的な、この作品のようなアニメを、俺は愛おしく思う。

難解で哲学歴な作品かと思いきや、内容はものすごくシンプル。深読みしようとすればいくらもできるが、この作品はざっくり言ってしまえばファンタジックなキャスト・アウェイだ。
漂流した男が四苦八苦しながら島を脱出しようともがき、不思議な出逢いを経て、小さな島で人生を全うする様を描いた、淡々としたドキュメンタリー映画のような構成。それをアニメーションでしか描けない美しい情景で彩っている。

絶海の孤島が舞台だけあり、水の表現はバリエーションに富みどれもが非常に美しい。
まるで空を飛んでいるような、でも確かに水の中を泳いでいるとわかる、うっとりするような幻想的な、しかしこの世界のどこかにこんな情景があるのではないかと思える現実味も伴って、透き通った無色透明の、吸い込まれるような深い青の、鈍く光る白銀の、色々な海の世界が描かれている。それに特化した作品といっても過言ではない。

また音楽も素晴らしい。メインテーマのメロディは耳に染み付いて離れない。

謎が多いシナリオだが、その謎を強いて解き明かそうという気分にはならない。そういうものだと納得させられているような感覚だ。
子供の旅立ちは入水自殺にしか見えない。亀が男の船を壊して引き止めたのは、そもそも霊亀が男を愛していて夫とするためだったのだろうか?
とはいえ前述のように、そこらへんを深堀したい、裏設定を知りたいという欲求には駆られない。

「スタジオジブリ最新作!」と銘打って宣伝すれば何も知らない一般人をそれなりに釣ることもできたのだろうに、プロモーションの時点で「はい!このアニメは一般人向けではありませんからね~素人は来ないでくださいね~来ても責任持ちませんよ~」という敷居の高さを隠さない姿勢だったのは偉いと思う。

ヨックモック