「絵本のような画で語られる、切ないラヴストーリー」レッドタートル ある島の物語 りゃんひささんの映画レビュー(感想・評価)
絵本のような画で語られる、切ないラヴストーリー
無人島に漂着したひとりの男。
島に生えている竹を使って筏をつくって島から脱出を試みるが、沖に出たところで「何か」にぶつかって筏を壊されてしまう。
筏を大きくして何度も試みるが、結果は同じ。
ある日、その「何か」の正体がわかる。
それは、大きな赤いウミガメだった。
男とウミガメは海中で顔を合わせてしまったのだった・・・
というところから始まるハナシは、その後、陸に上がってきたウミガメを男は腹立ちから殺してしまい、後悔の念の駆られるうち、ウミガメの死骸は大きな甲羅を残して、若い女性に変身してしまう。
そして、男はその女と一緒に暮らし始めて、子をなす、という展開になる。
おぉ、奇妙な展開・・・
とも思ったが、これはよくある民間伝承の類のハナシではありますまいか。
『つるの恩返し』なんかに似ているが、ちょっと違うか。
あっ、もしかして『人魚姫』では?
と気づくと、わかりやすい。
赤いウミガメが、海中で出逢った男に一瞬のうちに恋をして、男に会いに来た。
しかし、誤って殺されてしまい、男の後悔がウミガメの想いを成就させて、人間に変身させる。
そんなハナシ。
切ないラヴストーリー。
そして、ふたりの間にできた子どもは成人し、海へ旅立っていくが、これは人間の根源・ルーツに係る民間伝承の類だろう。
「われわれの先祖は海からやってきたんだよ。なぜなら、むかしむかしのご先祖様はウミガメだったんだよ」
そんな伝承が、南の島にあったってヘンではない。
謳い文句の「どこから来たのか どこへ行くのか いのちは?」は、これを指しているのだろう。
と、ストーリーについて長々と書いたが、この映画の魅力は、なんといっても画の魅力である。
シンプルな線描に施された彩色。
絵本のような絵。
こういう絵が動くのか、それも、こんなゆったりとした物語の流れの中で。
ジブリ作品といえば、ワクワクドキドキハラハラ。
心拍数が上がりそうな、交感神経が働きそうな、そんな感じだけれど、この映画は違う。
物語的には、ハラハラもするし、ドキドキもするけれど、副交感神経が働き、穏やかな気持ちになる。
米国アカデミー賞受賞の短編『岸辺のふたり』を観ていないのでなんともいえないのだけれど、アーティスティックプロデューサーとして参加した高畑勲の影響が大きいかもしれない。
特に、コミックリリーフ(息抜き)として何度も何度も登場するカニたちのユーモラスな動きは、かなり古いタイプ演出手法だし。
お子様連れで劇場で観るには、ちょっとツライ。
幼い子どもたちには、大人が横から「ほら、カメさんと男のひとが見つめあってるねぇ」とかのナレーションをしながら一緒に観たい、そんな類のアニメーションかもしれません。