「巨大組織にメスを入れる困難さ」コンカッション 天秤座ルネッサンスさんの映画レビュー(感想・評価)
巨大組織にメスを入れる困難さ
知性と行動力を携えた身ひとつで、大きな組織に立ち向かっていく映画には、いつも勇気を貰う。それと同時に、権力を得た巨大組織の非人道性に落胆したくもなるのだが。
一介の解剖医(しかもアフリカ人)が発表した論文が、アメリカで絶大な人気を集めるフットボールのプロリーグ団体NFLの闇を暴くようなものであった、ということから、組織的に追い込まれながらも、医師という肩書を取り除いても最も大事な「命」を優先し、アメリカ社会の不条理に立ち向かう様が描かれるこの映画。とは言え、主人公は決してヒーローというわけではなく、愚直なだけで不器用な異国人、というところも良い。一人の普通の男が、何かを成し遂げる、というところにロマンを感じるし、これをまた日本の身近な物事と重ねたりなどしながら、考えさせられる部分も多かった。日本だって、利権を得た巨大組織が、自分らに都合の悪いことを隠蔽し、それを暴こうとするものを制裁するような体質があるし、一部それらが露見し始めているところでもある。ましてこの映画の場合、その対象が国民の愛する健全であるはずの「スポーツ」という世界に起きたため、なおさら逆風も強い。それでも命の大切さを尊重し続けた主人公の強さにやはり感動があり、また医療サスペンスのような緊張感もあって、最後まで息をのみながら見入ってしまった。
正直、ここ数年のウィル・スミスの仕事には興味が失せているところがあり、バカ息子のことやホワイト・オスカー批判含めて、スミスの空回りを感じずにいられなかったのであるが、こうして作品を見てみると、やはりいい芝居をするいい役者だと思い直す。この作品を見ても、役柄に温かみや人間味を盛り込みながら、伝えたい芯の強さのようなものを見事に表現していて、なんだかんだ言って、やっぱりウィル・スミスのことも、彼の出演作も好きだと気づかされる一本になった。