「ホラーのリメイクとして、新たなお気に入りの作品に。」マーターズ kobayandayoさんの映画レビュー(感想・評価)
ホラーのリメイクとして、新たなお気に入りの作品に。
2016年2月5日にヒューマントラストシネマ渋谷のスクリーン3にて、レイトショーで鑑賞。
私はホラー映画も好物で、ある時期を境に劇場へ足を運んで観るほど好きなジャンルの一つとなっています。そのなかで特に思い出深いものがフランスで製作された『マーターズ』であり、訳の分からない設定、既存のホラー作品を超越する精神的にくる痛々しい描写の数々に圧倒され、これを観た後はどんなホラー作品を観ても、怖いと思うことが無くなったほど、強烈で、痛々しさが満載のわりに何度でも観たいと思わせる珍しい作品でもあり、DVDでも観る回数の多い一作でした。それがハリウッドでリメイクされるというニュースを数年前に知り、興味を持って、観られる日を楽しみにしていました。
アメリカのとある街において、幼い少女リュシーが傷だらけの状態で、一つの建物から脱走し、警察に保護されてから、養護施設へ預けられる。彼女は「怪物がいる」と口にするだけで、具体的に何も明らかにならず、警察は捜査をしても、解決には繋がらず、リュシーは毎晩、暗闇に怯える日々を送る。そんなリュシーの前にアンナという同年代の少女が現れ、仲良くなり、共に成長していく。それから10年が経過した、ある日、リュシー(トローヤン・ベリサリオ)はライフルを片手に一つの邸宅を襲撃し、そこに暮らす一家を射殺。その後に、そこにやって来たアンナ(ベイリー・ノーブル)に対し、「こいつらが、あの時にやったんだ」と説明するも、恐怖はそれだけでは終わらなかった(粗筋はここまで)。
基本的な部分はオリジナルと同じで、そちらを先に観ていると、その後の展開が分かってしまう点が少々、残念に思えたのですが、アプローチを大幅に変えていて、ハリウッド・リメイク版だからこそ出来る要素を入れ、オリジナルではあっさりとしていたリュシーとアンナの幼少時代をじっくりと描き、83分と短くても、非常に濃密な世界を描くことに成功していると思いました。特に中盤以降はオリジナルには無かったところが多く、そこに到るまでは「もしかしたら、オリジナルと同じか」という不安が過ったのですが、良い意味で裏切られ、見終わった時にはオリジナルを観た時と同じような衝撃と興奮を味わいました。
オリジナルは全てにおいて完璧で、リュシー(ミレーヌ・ジャンパノイ)の襲撃で死ぬ青年の恐怖の表情は演技には見えないぐらいにリアルで、アンナ役のモルジャーナ・アラウィが撮影中に何度も怪我をしたと言われるぐらいハードな世界を演じきり、ホラー映画のなかでは、かなりの名演技を画面に映るほぼ全ての役者が披露していたのが印象的で、今回のリメイク版での俳優陣はそこには及んでいないのですが、普通な感じだったジャンパノイやアラウィよりも体格が良かったり、美形だったりと、差別化をはかり、トローヤン・ベリサリオのガタイの良さは「この人だったら、正体不明の集団に襲われても、逆にボコボコにして帰ってくるように見える」といったツッコミどころを用意し、そこが私にとってツボにハマリ、とても楽しく見れました(出演者の面での驚きは“スリー・ハンドレッド-帝国の進撃-”で幼い頃の“アルテミシア”を演じていた目力の強いケイトリン・カーマイケル。彼女が本作に出ているとは)。
ヨーロッパの作品のリメイクはハリウッドの名作のリメイクやリブートよりも難しく、ベルギーのサスペンス『LOFT』のオランダ版のように、オリジナルの監督が作ってる訳じゃないのに、そのままになっているか、毒々しさやブラックなユーモアが失われているといった感じで失敗してしまうのが殆どだと思うのですが、今回の『マーターズ』は、そのなかでも頑張っている方で、リメイクのなかでは成功の部類に入ったと自分は思います。少し描き過ぎな点は否めませんが、これもハリウッド流で、悪くなかったです。
個人的にはロブ・ゾンビ監督の『ハロウィン』シリーズやジム・ソンゼロ監督による『パルス』と並ぶホラーのリメイクのなかでのお気に入りな作品となりました。オリジナルを観ている人(頭を空っぽにしてご覧ください)も、そうでない人(本作を観てから、オリジナルを観るのも良いかもしれません)も、一度、ご覧になってはいかがでしょうか。