大恋愛のレビュー・感想・評価
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結婚して仕事も家庭も順調…と思いきや 入社してきた秘書に心奪われ、...
結婚して仕事も家庭も順調…と思いきや
入社してきた秘書に心奪われ、妄想ばかりが膨らむ様子。
ベッドに横になったまま、自動車のように道路を行き来するなど
シュールな描写、なんとも不思議な鑑賞体験でした。
現実と夢想の入り乱れる、マスオさんの浮気志願映画。フランスの片田舎を疾駆するダブルベッド!
ようやく、イメージフォーラムでの終演間際に、残っていた1本(+短編1本)を観ることができた。
ピエール・エテックスにとって、4本目の長編であるが、面白さとしては、『健康でさえあれば』よりは上、『ヨーヨー』よりは下といったところか。
『大恋愛』といいながら、『大』ってほどの恋愛が描かれるわけではない。
気弱な優男の、成り行き任せの奥さん選び、
半ば婿養子の如きそこそこ幸せな結婚生活、
結婚10年目でめざめた秘書への浮気の虫を、
相応のペーソスとギャグをもってゆったりと描いていく。
日本でいえば、まさに森繁久彌の「社長シリーズ」のネタだけど、
(あれもまず社長の浮気は成功しないまま終わる)
僕の知ってる洋画のノリでいうと、
ビリー・ワイルダーの『七年目の浮気』(55)に近いのかな?
題材的にも、語り口的にも。
語り口が『七年目の浮気』によく似ているというのは、現実と妄想がごっちゃになって呈示されるナラティヴのありようがそっくりだからで、最初ペースがつかめるまでは、何が実際に起きているか、ぱっとはつかみにくいかも。
たとえば、冒頭の結婚までの回想にしても、最初1人との結婚式が描かれたかと思うと、今度は2人との結婚式、さらには何人もの花嫁がいるハーレム結婚式と、「ナレーションで語り直されるたびに、ほら話が肥大していく」つくりになっている。
お付き合いしていた相手が何人もいたという話も、どこまで真に受けていいのかよくわからないところがある。とにかく、話者である作中のピエール・エテックスが、適当な記憶で回想を始めるたびに映像もそれにつられて変わってゆくので、観ているわれわれも、エテックスの呈示する曖昧でご都合主義的で誇張と自慢含みの与太話に巻き込まれていくというわけだ。
この「語り口に映像がつられる」という現象には、いろいろとヴァリエーションがある。
たとえば、エテックスの浮気を疑って奥さんが「実家に帰る」シーンでは、いい天気なので車通勤をやめて公園を歩くエテックスの姿が、何度も何度もリフレインされるのだが、この「語り直し」に影響しているのは、エテックスの語りではなく、「今日公園で彼を見かけた」という噂話を知り合いに伝播していくおばちゃんたちだ。
つまり、噂話に尾ひれがついていくたびに、公園でのエテックスと通りすがりの婦人の「挨拶」がどんどん誇張されて、最後には「茂みで事をいたす描写」にまでたどり着く。これが「伝言ゲームの末に奥さんの耳に入った情報の生れの果て」というわけだが、そのへんあまり説明しないで実験的なナラティヴをかましてくるので、ぼーっと観ていると何が本当に起きていることなんだか、だんだんわからなくなってくる(ちなみに、夫の「浮気」を伝えられた奥さんが顔を真っ赤にして泣くシーンは、油断していたので思わず笑ってしまった)。
さらには、奥さんの帰った「実家」が実は「ただの階下=1階」であることが後から明かされるので、余計にこんがらかってくるという(笑)。
全編を通じて最も印象的なのは、やはり「走るベッド」のシーンだろう。
エテックスの夢のなかで、ベッドがやおら寝室を飛び出し、フランスの田園風景のただなかを、オープンカーさながら走り出すのだ。
このシーン、映画祭のキービジュアルにもなっているのを見ても、誰にとっても忘れがたいインパクトがある、ということだろう。
音楽も含めて、コミカルなだけでなく、どこかノスタルジックで、白昼夢的。そのうえ、そこはかとないペーソスをも感じさせる。「とんでも」なのに「上質」な感じは、『七年目の浮気』のためを張っている。
道端で故障したり、渋滞したり、といった「車あるある」は、この映画の上映前に流された短篇『幸福な結婚記念日』のネタとも共通する。この当時のパリの道路事情って、よほどひどかったんだろうなあ。
個人的には、自分自身が結婚20年、浮気のひとつもしたことがないので、(自己正当化したいのもあってw)あまり不倫ものの話には共感できないことが多いのだが、今回の話は「奥さんがいるのに恋をしてしまったことにうじうじし、若い秘書にホの字でも一向に声をかけられない」男の悲哀を描いた、どちらかというと「僕みたいな」人間が主人公なので、とても共感できる部分が多くてよかった。
ま、いいんですよ。妻帯者だって、頭の中でいろいろ夢想するくらいは。
僕だって、道端で倒れて僕の庇護を求めている魔法少女とか、雨の夜に匿ってくれって飛び込んでくる女スパイとかとの邂逅を何十年も夢想してやまないけど、そういう夢想は間違いなく人生を豊かなものにしてくれますから(笑)。
総じて、共感性は高かったのだが、全体にギャグがゆるかったり、今の自分にはまったりしすぎで乗り切れなかったりで、ものすごく楽しめたかというと、まあまあといったところか。
あと、「古女房がだんだん義母に似てくる問題」というのは、マジでぶっちぎりでリアルに切実すぎて、ちょっとホントにガチで笑えませんでした……!!!
オープニングでは傑作の予感してたけどなあ…
ロワール川を上空から俯瞰で、ゆっくり捉え、スローなラヴソング(何気に名曲。歌ってたのは妻フロランスを演じ、後に本当にエテックスと結婚したアニー・フラテリーニ)が流れてたオープニングでは傑作の予感だったけど。
ちょっとイマイチだったなあ。
あんなイイ曲、オープニングで流しておいて、ラストの伏線にしないなんて…
やっぱりダメだろ。
あの秘書の子も、如何にもアノ当時の60年代のフランスのカワイコちゃんといった感じだったんで、もっと主人公の妄想の中では、小悪魔な魅力全開でエロく暴走して欲しかったなあ。
やっぱり、この手のストーリーは男が破滅寸前まで、もうイヤ!というほど振り回されないとコメディとして爆笑力がブーストしない。
出来ることなら、洒脱なユーモアと爆笑エロスの化学反応で、ブルジョワ的な倫理観をブッ飛ばして欲しかった。
そして、本物の”Le grand amour”に気付く…
みたいな、そんな流れで観たかった。
というか、本来は、そこを狙ってたと思うんだけどなあ。
おそらく従来のピエロ的な翳りのある笑いだけでなく、もう一歩踏みこんで、ボールドで”grand”な艶笑コメディも構想してたんでは?
でも結局は最後、またもやピエロ的な悲哀感で(ちょっとシツコイ)失笑を誘って、終わってはいたが…
ちなみに、邦題の方は原題のまま『グランド・アムール』で良かったかな(発音的には”グランダムール”かもしれんけど)
grandには、大きいという意味だけが含まれている訳ではないので。
それに、そもそも日本において巷で言うところの”大恋愛”をテーマにしてる訳でもないし。
誤解を招くのは避けた方がイイと思うな。
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