劇場公開日 2016年9月10日

  • 予告編を見る

「権威を相対化してしまう爽快感」超高速!参勤交代 リターンズ 耶馬英彦さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0権威を相対化してしまう爽快感

2016年9月18日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

笑える

人を支配するための基本的な方法は暴力だ。殺されたり痛い目に遭わされたりするとわかれば、そうされないように暴力にひれ伏すことになる。権力の歴史は、そこから始まった。
民主主義の時代になって国民が権力の主体(国民主権)とされても、実態は変わらない。支配するものとされるものの構図は相変わらずで、やはり暴力が介在する。警察権力は一種の暴力装置だ。
悪いことをしなければ警察の暴力に遭うことはないと、のほほんと構えている人は、一度沖縄の辺野古に行ってみるといい。警察、海上保安庁、自衛隊による暴力で、丸腰の国民が痛めつけられている。
江戸時代はさらにわかりやすく、権力が江戸に集中していた。そして権力の集中を保つために大名を江戸に参勤させていたのだ。大坂夏の陣以来の権力闘争の流れから生まれた制度といっていい。

さて、本作はコメディとして大変よくできた作品で、登場人物がいたって真面目に職務を果たそうとする分だけ、彼らの失敗やボヤキがとても笑える。
8代将軍の時代になっても、武士のなかには未だ戦国の気分が残っており、時の権力には従うが、権力はあくまで暫定的なものにすぎず、権力闘争によって人から人に移っていくものだとして権力自体を相対化する考え方が続いている。場合によっては毅然として上意を断ることもあり、それが映画の爽快な笑いの土台となっている。
民の生活や地産の食べ物が大好きな殿様と、時と場所を選ばない深キョンの女心が愉快なのは、権力や悪を笑い飛ばす庶民の力が痛快だからだ。
コメディとしては意外なほど壮大な世界観がある傑作である。

耶馬英彦