「風景に収まる」ロスト・イン・マンハッタン 人生をもう一度 津次郎さんの映画レビュー(感想・評価)

3.0風景に収まる

2020年7月11日
PCから投稿

どこに出ていても控えめなので主演をさがすひとがいる。
ドニーダーコのとき惹かれて以来コンスタントにクレジットがある。
だが、どの映画も脇でサッといなくなる。
がっつりの主演はないのか。
ジェナマローンはそんな女優だと思う。

顔立ちに気品があり幼さが残っている。
広い額と結んだときの口元にadorableがあらわれる。
だが役はスラッティなのが多い。
ぜんぜん脱ぎ惜しまない。
ほんとは演技派である。

ギアの浮浪者で語り草になった映画だが、老いと都市の砂漠──その茫漠に、ぽつんとジェナマローンがいる。
奔放に生きているが、懸命に生きてきた。

批評家と一般、評価がいちじるしく乖離した映画だった。
ジョージとマギー、どちらが気の毒なのか──。
家庭を放擲した男の末路として、日本では低評価に覆われた。
海外では、総じてギアの熱演が加算されている。

映画を見渡すと、やはりジェナマローンに寄せてしまう。
かれの路上生活にもっと、やむを得ないような事情が欲しかった。
アルコールに逃げない向上心が欲しかった。
加えてジェナマローンは庇護欲求をかきたてる女優だった。
映画のなかで彼女は女色と潤いを、オアシスのようにたたえている──わけである。

全編ロケで路上生活者と間違えられた逸話があった。
窓越し──のように、越しかロングでカメラを据える。
スターがすこしの違和感もなく下層に馴染んでいる。
演技というより監修や外見やロケがかれを下層たらしめていると思う。

邦題は誤謬。人生をもう一度──そんなこと一ミリも述べていない。

コメントする
津次郎