「人は憎しみより、愛や思いやり、優しさであると信じたい」バジュランギおじさんと、小さな迷子 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
人は憎しみより、愛や思いやり、優しさであると信じたい
人のいい男が迷子の女の子を家まで送り届ける旅に出る。
ロードムービーの類いとしてはよくある設定かもしれないが、これがインド映画の手に掛かると…
笑いと人情の珍道中、歌や踊りも勿論、トラブル続出でハラハラ、宗教や国家間の問題も込めつつ、ハンカチじゃなくタオル必須のラスト…。
これだけたっぷり詰め込みながら全く破綻しない、大ボリュームの面白さと感動。
やっぱインド映画ってスゲェーわ…。
インド人の男、パワン。周りから“バジュランギ”と呼ばれている。
10回も落第するほど学の方はアレだが、バカが付くほど誠実で正直者で、皆から慕われている。
運命の女性と出会い、彼女の実家で彼女の家族と暮らしているが、彼女の父親から一人前になるまで婚約を認めて貰えない。
そんな時出会ったのが、この一人の女の子。
どうやら迷子らしい。
何処から来たのかどころか名前すら聞けない。
何故ならこの女の子、口が利けず字も書けない。
“ムンニー(お嬢ちゃん)”と呼ぶ事にし、いったん家で預かる事にするが、とある事でとんでもない事を知る。
ムンニーは、パキスタン人だった…!
(ムンニーの名前は、シャヒーダー。パキスタンからインドに願掛けにやって来たが、母親とはぐれてしまう…という経緯が序盤で描かれるが、レビューはあくまでパワン目線で、シャヒーダーも“ムンニー”と表記する)
インドとパキスタン。
日本人にはよく分からないが、両国には過去に何度も争いがあり、悲劇が起こり、その対立は今も尚続いている。
彼女の父親は大激怒。追い出せ!…とまで。
パワンもさすがに困り果て、パキスタン大使館に連れて行く。が、ここで…。
この時のパワンの行動に胸熱くさせられる。そして、ある決心をする。
国境を越えてパキスタンに行き、ムンニーを家族の元に送り届ける。
信心深いパワン。全ては、ハヌマーン様の思し召し。(“バジュランギ”とは、ハヌマーン信奉者の意味)
彼女やその家族は猛反対。
バカ誠実でバカ正直で信心深いと言う事は、一度決心した事を投げ出したりはしない。
猛反対を押し切ってまで旅立つ。
…が、ここからが本当に山あり谷あり。
最初の難題である国境越え。
さらにパキスタン警察から、スパイと間違われ追われる身に。
果たして無事、送り届ける事が出来るのか…?
苦労の連続だが、ここからがグッと面白さが増す。
シリアスや深刻になり過ぎず、笑いと涙で。
パワンの宗教感やインドとパキスタンの対立関係も色濃く意味を成してくる。
国境越え。たまたま知り合ったパキスタン人の計らいで密入国しようとするが、パワンはそれを拒否。
国境警備隊に許可を得て、堂々と入国する。
何故なら、ハヌマーン信者はコソコソなどしない。
が、そんな事が通る筈もなく、当然捕まる。
イカれてると思われても、それでもパワンは真っ直ぐに訴え続け…。
立ち塞がる者も居れば、協力者も。
バスの運転手や先生。
そして、同行する事になったTVリポーター。
そもそもはこのリポーターがパワンをスパイとし、特ダネを狙っていたのだが…、
ムンニーの純真無垢な瞳とパワンの真摯な姿に打たれ、自分が間違っていたと知る。
言うのは少々気恥ずかしいが、良心、善意、愛…これらに心を動かされない人は居ない。
…いや、でも居るのだ。
彼女の父親、警察、TV局ら偏見や頭の固い連中が。
勿論、歴史の悲劇は忘れてはいけない。どうしても譲歩出来ないのも分からんではない。
でも、ムンニーや今を生きている我々が何か悪い事でもしたのだろうか…?
ああいう頭の固い連中が居るからこそ、ずっと偏った感情に縛り付けられたままなのではないか…?
結局国家間の対立は、進展しようと努力しない国のお偉方や一部の傲慢な輩のせい。
人と人一対一の関係では…。
そういった面が、本作には描かれている。
サルマン・カーンの人間味たっぷりの好演もいいが、時々ちょっとお転婆なムンニーことハルシャーリー・マルホートラが天使のように愛らしい。
ロケーションも素晴らしい。
少々過剰描写でご都合主義で理想的過ぎでもあるが、非常にドラマチックで、これぞ映画の醍醐味。
と言う事は、言うまでもなくハッピーエンド。
で、ここが特に目頭熱くさせる。
遂に遂に遂に、ムンニーの家がある村を突き止める。その目的地直前、検問。
そこでパワンが取った行動には、日本人なら心揺さぶられる事間違いナシ。所謂“自己犠牲”。
パワンにとってこの旅は、何をもたらしたのか。
自分の身にも危機や危険が降りかかり、ハチャメチャにまで。
見返りすらない。
でも、ただ一つ。
ムンニーが家族と再会出来た。
何と嬉しく幸せな事か。
おじさんと女の子が起こした奇跡。
愛や思いやり、優しさ。
それらを、国家間の対立に疑問や訴えを込めて。
タイムリーに日本では、某国との関係が最悪なまでに悪化している。
あちこちで、お互い誹謗中傷のやり合い。
そういう状況や経緯に陥ってしまった事情は複雑だが、何て哀しく愚か…。
この映画を見せてやりたい。
おはようございます。
お詫びです。
近大さんのレビューは読みがいがあり、共感すると以前にも共感している作品が多く、共感を取り消す→再度共感するを幾つかのレビューで、してしまいました。
すいません😣💦⤵。