「有馬電鉄…?」ハッピーアワー puccinoさんの映画レビュー(感想・評価)
有馬電鉄…?
無名の女性4人がスイスのロカルロ映画祭で最優秀女優賞を受賞した。ニュースでも話題になっていた。しかも4人は演技経験のないほぼ素人。そして上映時間が5時間17分…!
この映画が公開されてからもう7年近くが経っていた。 当時かなりのインパクトを受けたことを今も覚えている。 DVDをネットで購入しようと思った矢先、運良く過去の濱口監督作品の再上映が地元の映画館で催しされるという情報を目にした。このチャンスを逃したらもう二度と映画館で観る機会は無いと思いさっそく上映初日映画館に出向いたのでした。
小さな映画館の前に大勢の人だかり。13時30分上映開始。19時10分終了。途中10分の休憩が2回。昼食も近くのコメダで軽く済ませ体調も万全。トイレも行った。こんな気合い入れて鑑賞に挑んだことは今までにないだろう。
…そして上映終了。
私は満足感と疲労感で心地よい余韻に浸っていたのでした。のそのそと映画館を出てすっかり陽が沈んで真っ暗な外の空気を深呼吸。「さあ、ここからは現実。自分の物語やぞ…」と、よくわからない覚悟をしてしまうほど映画と現実が繋がっているかのような気分で家路に向かっていたのでした。自分も何かしら抱えているであろう不安や悩みと重ね合わせて少しぐったりもしていました。思えばあっという間でした。観入ってしまいました。まさかの体験でした。これで3千円とは確実に元は取れました。
とにかく日常で繰り返される本心の言葉を導き出す独特な会話劇だった。相手が発した言葉をわずかも聞き逃さずに問いかける。「なぜ、どうして、なぜそう思う?」普段口にしない言わない言葉も人から問われることで自分の言葉で本心をさらけ出していく。友達や家族の前では見せたことのない真の自分の姿が、当の本人が困惑する程の抑えきれない言葉と感情が露わになる様が、これまでの自分と周りの人間性をも変化させて行く物語の流れが、全てがとても秀逸だった。
主演の4人がそれぞれ抱えている問題は何も解決はしていないけれど、皆確実に一歩前に進み出した。以前より自分ごとのよいにお互いを思いやる真の仲になっている。4人のこれからの人生がハッピーアワーなのかもしれない。
最初は一体何を観せられているのかとても不安にさせられる場面が結構な長尺で続いた。しかし後半へとちゃんと繋がっていた。お見事である。5時間17分。まだまだ観てられる。途中の休憩時間中、続きが気になって気になってしょうがなかった。一体どんな結末を迎えるのか予想もできなかった。観客も誰一人脱落者はいなかった。こんな映画体験は初めてでした。
そういえば濱口監督が突然役で出てきてびっくり。
バーでカッコつけた演技。セリフはやはり棒読み風で終始あの笑顔で。思わず鼻で笑ってしまった。唯一笑った場面。
また数年後、自分がこの先どんな人間になっているか想像もつかないけれど、またこの映画を見返してどう感じるか確かめてみたいと思う。
シネマスコーレ
「ハッピーアワー」
2022/4/2
追記
そして2024 12月末現在、濱口竜介監督特集上映中。
懲りもせず来週また「ハッピーアワー」観に行きます!