「周波数は合わないけれど、ベターハーフだ、二人は「ビンゴ」をGETなのだ」スターレット きりんさんの映画レビュー(感想・評価)
周波数は合わないけれど、ベターハーフだ、二人は「ビンゴ」をGETなのだ
ショーン・ベイカー、いいなぁ。
「なんという事もない庶民の毎日」が、実はこんなにも慈みとドラマに満ちていること、
そして目が離せないものなのだいうこと。それを僕らに教えてくれる。
そう。本作、筋書きは特にどうって事はないのだ。なのにそれを103分ポッキリで、忘れがたい大きな人間ドラマにまとめてくれているのだから、驚いてしまう。
たくさんの映画を観てきたが、僕はこれはきっと忘れないと思う。
ジェーンとセイディがそっぽを向きながら“秘密”を相手に明かすラスト。気づいていない振りをしてくれるお互いの優しさと赦し。
そのいじらしさの余韻が、もうとんでもなく素晴らしい。
(新居を探し、部屋を模様替えし=)自分の人生探しの途中にある娘ジェーン。その若きジェーンのお節介に、気難し屋のセイディは応えてくれて、めんどくさいけれど一緒にPARISに旅立ってくれるわけだ。
アノーラにはイーゴリがいた。
フロリダ・プロジェクトのムーニーにはウィレム・デフォーが。
そしてセイディにはジェーンがいる。
「人生にビンゴ」だ。
・ ・
まくしたてるルームメイトの女の子以外には、この主人公の二人は「とてもセリフが少ないお芝居」ではなかったろうか。街の雑音が凄くて人の声がかき消される前半。音楽もラストまでほとんど鳴らないし。
あちらへ向ける老女の横顔が心の動きをバラし、「ふんふん?」と言葉無しに年寄りを覗き込んでからかうジェーンの表情が朗らかで、
スーパーの駐車場や玄関先での無言のシーンがまたとっても良い。墓場や庭でもみんなが黙っている。
セリフ無しのシーンが繰り返し沁みる。
チワワのスターレットがいなくなり、友だちとなってくれたジェーンの事も失われるかもしれないことの、「喪失感」の張り裂ける淋しさで、乱れてしまうセイディが愛おしい。
セリフがこんなに少なくても、たぶん恐らく膨大な量の演出と「ト書き」で、台本はびっしりだったはずだ。
「年寄りの意地っ張り」を思い出すと、こうしてレビューしていてまたじんわりと胸が温かくなる。
笑ったり、涙こみ上げたりしながら、僕は監督の眼差しの優しさにすっかりやられてしまっていたのだ。
ショーン・ベイカー。いい人だ。
・ ・
この映画、上映の情報を知らせてくださったmoríhideさん、ありがとうございました。
また人を信じる心がよみがえってきました。
(「松本シネマセレクト」ショーン・ベイカー傑作集 上映会にて )
観ることができてよかったです。
私も2回目の鑑賞しました。
1回目では見過ごしていたことを発見しました。
沈黙に関してはその通りですね。
このコメントでの発見です。
きりんさん
コメントを頂き有難うございます。
ドリーの母・マリエルも、伯母のマーゴも美しい人ですね。
確かに、辛いですよね。お母様がご存命でいらっしゃるのが救いですね。
ショーン・ベイカー監督作品、本作が初めてでしたが、鑑賞者に委ねるタイプの監督さんなのですね。
考えさせる事で余韻を残す、確かにそんなものかも知れませんね。
きりんさん、こんばんは!生きてる落語家で唯一の国宝、五街道雲助師匠の本(インタビューを受けての本かな)が面白そうです。今度久々に行く落語会に出る噺家:文菊、円楽(好楽の息子)、雲助、白鳥、権太楼 です
きりんさん、ご無沙汰してます。
上映情報ありがとうございました。
上田映劇で、10月24日から、初期傑作選を上映するようです。
今から楽しみにしておきます。
こころさん
役者個人の情報ではジェーンのドリー・ヘミングウェイは「リップスティック」のマーゴ・ヘミングウェイとマリエルエ・ミングウェイ姉妹の妹のほう=マリエルの娘なんですね。ゆえに作家アーネストのひ孫。
彼女が役者になっていったその経緯にも興味津々ですし、
そして劇中のジェーンがどんな家庭で育った子なのか、こころさんのおっしゃるように知りたくもなります。
朗らかなジェーン役ですが、自殺者があまりにも多い家系なので、元気に長生きしてもらいたいです。
で、ショーン・ベイカーが「凄腕」だと思う所は、物語のテーマを1点に集中させるためだったら、その他の情報は上手く伏せてしまう事ですね。
(下手な監督なら103分に収めずにダラダラとジェーンの背景まで取り込んだはず)。
だからこそ余計に出てきた登場人物に厚みが出て、心に残ってくる。
短歌や俳句に似た「あと引く余韻」はそこかなぁ?と感じました。
moríhideさん、
上映情報ありがとうございました。
作品集の一挙上映でしたが、「スターレット」に的を絞って、先ほど夜勤に出る直前に滑り込みで観て来れました。
良かったです!




