「リアルって何かね」日本のいちばん長い日 2638さんの映画レビュー(感想・評価)
リアルって何かね
何かシンゴジでも見た気がしますが「早口ばっかりでリアルじゃない」って人々は、本物の帝国軍人さんたちを見たことあるのでしょうか。自分は軍人も官僚も見たことないのでリアルかどうかはちょっと判別できないです。本物を見たことがある(もしくはご本人が本物の)人々が作っていて、本当に真に迫った迫力と圧力があるのは旧作でしょうが、「平和のための教訓とせよ」とかそういったとことは距離を置いて、自分は本作が好きです。
まずは原田監督の映像と、富貴晴美氏の音楽が素晴らしいと思います。旧作はまずもって白黒だったのでそれによる「圧」と、音楽はゴジラを書く佐藤勝氏だったので「凄み」がありましたが、本作は物悲しく重い音楽と、車が散らしていく桜、陸相官邸の林、宮城の蝉の声など、美しさが諸所に感じられます。国の中枢ではこんなことになってて、あと数か月後にもあんなことになるのに、自然というのはいつもと変わらず美しいと思わせる映像です。それに思うところがある人はたくさんいるでしょうが…。「教訓は抜きにして…」と言ったところですが、強いて言うなら、もうちょっとでこれがなくなるとこだったんだよな、と、自分はそう思います。
旧作の方は、一般市民や特攻隊、憲兵隊などを含めて作品が作られていましたが、本作は閣僚、軍人とその家族、侍従、そして天皇個人に少しずつ注目する作品だったと思います。一人一人各々の人生や価値観があって、それらが完全一致するようなことはないながら、全員が各々の価値観に従って国と接していて、それによって何が起きたのか、ということを描いているのが好きです。戦争はそうやって起きるものだと思うので、ある意味それも「リアル」なんじゃないでしょうか? 「日本紀などはただかたそばぞかし」と光源氏も言ってるし。
見ている我々は「この人たちの世界がもうすぐ終わる」ことを知っていて、後世批判される立場にある人々がいることも知っていますが、だからといってこの人たちが経験した苦労や悲しみがなかったことになるわけではないことも覚えておきたいなと思う作品でした。