「作品単体では理解不足に陥る」日本のいちばん長い日 Cape Godさんの映画レビュー(感想・評価)
作品単体では理解不足に陥る
総合70点 ( ストーリー:70点|キャスト:75点|演出:70点|ビジュアル:70点|音楽:60点 )
終戦に向かう日本の政府の裏事情が描かれていて興味深い。これを観る前には阿南大将はいけいけの強硬派という印象があってあまり好きではなかったのだが、ここでは強硬派をいかに制御して現実的に戦争を終わらせるかという違う側面も描かれていたのでその人物像に興味がわいた。
しかしこの国運を決める緊迫の主題を持った作品で、家庭人の彼に多くの光を当てるのは焦点をかなりぼかしている。彼がこのときに軍人として政治家として何をしたかだけで十分だった。
当時の軍人幹部の暴走に関しては、徹底した神国日本の軍人としての教育を受けていたので、このようなことが起きるのは仕方がない。しかしそのような部分が劇中で説明されていないし、若手軍人の人物像の掘り下げが浅い。
阿南にしてもそれは同様で、彼の本当の目的が何だったのか、もっとはっきりと描いていても良かったかな。ソ連を終戦工作に使おうと思っていた派閥があったとか、もっと終戦工作の内情をしっかりとわかりやすく描いて欲しい。
全体として原作ありき、歴史の知識ありきというのが前提になっているようで、この作品を単体で観ただけでは深い理解には至らない。複雑な事情を描くには2時間でも不足だっただろうか。そして終戦間近の日本政府の舞台裏・阿南の軍人と政治家としての行動・阿南の人格と家庭という三つ、これを無理に詰め込みすぎたことがより散漫になった原因だろう。
追記(2016. 8/14)
『日本のいちばん長い日』(1967年)の原版を観た。こちらのほうが家庭人としての阿南大将を描くことなく、軍人・政治家としての彼のみを描いていて焦点が絞れている。物語としては原版のほうが上。