「終戦70年、安保法案の年に、戦争を問う」日本のいちばん長い日 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
終戦70年、安保法案の年に、戦争を問う
今年5月に「駆込み女と駆出し男」で秀作を発表したばかりの原田眞人監督が、またしても力作を発表!
本当に今年は原田yearだ。
太平洋戦争末期、連合軍からのポツダム宣言受諾が迫る中で行われた御前会議。日本はいかにして戦争を終結させたのか、玉音放送直前何があったのか。
半藤一利のノンフィクション。
1967年にも一度映画化。
娯楽派・岡本喜八によるドキュメンタリータッチの演出が印象的だった。
ハリウッドの話題作ひしめく今夏の中で最も観たかった作品であり、終戦70年の節目だけに非常に期待を寄せていた。
某TVドラマの映画化や某漫画の実写化が話題をさらう邦画夏のラインナップの中で、これぞ映画らしい映画!
確かに難しい部分もあるが、全く理解不能という訳ではなく、知られざる歴史の裏側は興味を惹き付けて離さず、グイグイ引き込まれる。
単なる歴史映画に留まらず、クライマックスのクーデターはサスペンス映画としての緊迫感もたっぷり。
家族のドラマも挿入され、ドライだった旧版よりエンタメ性はある。
セットやロケーションは当時の暑く息苦しい空気を感じさせ、カメラワークも画になり、原田監督の重厚な演出は格調高く、風格さえ漂う。
役者たちの熱演も見事。
とりわけ注目は、昭和天皇役の本木雅弘。
演じたのは、“現人神”に非ず“人間・天皇ヒロヒト”。
そのプレッシャーは計り知れないが、柔らかな口調や所作など、昭和天皇とはこういう人物だったのかなぁと思わずにはいられなかった。
玉音放送もよく似せたもんだなぁと感心した。
おそらく、年末の映画賞で度々名が挙がるだろう。
重厚な作風の中でユーモアを滲ませる老総理役の山崎努、クーデターを起こす若き将校役の松坂桃李がベテランの中で唯一の若手のメインとして奮闘していたのも印象的。
終戦までの険しい道のり。
よく問われるのが、天皇の戦争責任。
が、本作はそれを問うた映画じゃない。
国を思い、民を思った一人の人間としての平和への願い。
映画では、最初からポツダム宣言を受け入れる姿勢でいたのは一目瞭然だ。
自身らが仰ぐ天皇の願いとは裏腹に、最後まで本土決戦を訴える一部の将校たち。
クーデターという強行手段はエゴで、それに固執し盲目になり、自分たちが反乱分子である事に気付かない。
彼らなりの国を思っての行動なのでただ切り捨てるように愚かとは言わないが、余りに哀しい。
様々な思惑が交錯する中で、多くの国民が犠牲になり、自ら命を絶ち、大量の血と涙が流された。
それが無駄にならない為に誓った、永遠の戦争放棄と平和。
…しかし!僅か70年後。
その誓いが揺らぐような法案が。
いくら何でも日本がまた戦争に関わる事にはならないと信じているが…。