「父親の喪失感を軸に展開するドラマに満足」バッドガイ 反抗期の中年男 うそつきカモメさんの映画レビュー(感想・評価)
父親の喪失感を軸に展開するドラマに満足
日本で言うなら、漢字検定のようなものか。
優勝賞金が5万ドルなんて子供が手にするには大金過ぎるだろうけど、以前には、全米バター細工選手権とか、バードウォッチャー大会とか、かなりニッチな世界を題材にした映画もあったから、こんな世界があっても不思議じゃないか。
子供がエントリーする大会に、いい大人が参加すること自体が大きな謎になっていて、どうやら並々ならぬ動機が潜んでいるようだ。というのがこの映画のキモの部分で、父親の喪失感を横軸に、大会の進行と、参加者の少年との友情を縦軸に映画を構成してある。
無駄な描写がほとんどない展開で、脚本段階でずいぶん丁寧に練り上げたようだ。ジェイソン・ベイトマンは、俳優と監督を兼任しており、現場至上主義だろうことがうかがえる。たとえば、子供が言いにくいセリフとかは現場で書き直すことがあったりするものだろう。それでも、映画は短く面白くまとめてあり、下品なジョークに笑えるかはともかく、「どうしてそんなに頑固なんだ?」という問いにはきちんと答えてある。
ちょっと残念だったのは、男の心の傷が詳しく取り上げられなかったこと。
父親の喪失感がテーマなのだから、ライバルの少年と友情を育んでいく過程で、同じく父親にコンプレックスを抱き、彼も寂しいことに気づくのだから、そこでうちあけ話の一つも入れてほしかった。まるで本当の親子のように関係を深めていく過程で、お互いに傷つき、その傷が見えやすいほうが、映画のストーリーがより味わい深くなったはず。なのに、少年はあまりにもタフネスで、傷つくそぶりも見せない。表面的にしか感情を発露していないように見える。そこを描いてあれば、ものすごい傑作ドラマになったかもしれないのに。
どちらにしろ、見て損はない。面白い映画だったことは間違いない。