「ゲスだけど、いつの間にかそのゲスの極みハーディに惹き付けられた」オン・ザ・ハイウェイ その夜、86分 スペランカーさんの映画レビュー(感想・評価)
ゲスだけど、いつの間にかそのゲスの極みハーディに惹き付けられた
画面に映るのは車を運転しながら電話をしているトム・ハーディのみと言う、何とも挑戦的なワンシチュエーション映画でしたが、とてもシンプルな構図なのに、その電話の会話だけで状況が脳裏に浮かんでくるところもあったりして、いつの間にかグイッと惹き付けられてしまいましたね。
運転しながら電話しているだけなのに主人公アイヴァンがどんな人生を歩んできた男なのか、またどんな信念を持って生きている男なのかが分かるこの構成は、素晴らしいの一言です。
監督のスティーブン・ナイトは、「ハミングバード」と言いこの映画と言い、地味にいい仕事してますね、まあ地味だけに、好みは分かれそうですけど。
勿論、演じたのがトム・ハーディだったからこそ良作に仕上がったのも間違いない事実。
苦しい状況に追い込まれ時折涙を見せつつも、自分の信念だけは貫こうとする強さも垣間見れたりと、彼の見せる様々な表情や台詞の数々には、思いっきり引き込まれてしまいました。
車の中のみの一人芝居で見る者を魅了してしまう辺りは、トム・ハーディならではの演技だったと言えましょうか。
電話の相手もそれぞれ声だけで皆なかなかの存在感。
特に部下のドナルは仕事出来ない臭漂う声が物凄く印象的でした。
でも、彼しかいない、そんな状況に緊張感たっぷり、見ている方もアイヴァンの心境が手に取るように伝わってきて、ジリジリしてしまいました・・・。
それから子供達の無邪気な声が、切なさを煽りましたね。
でも、絶望的な状況の中にも希望が見出せる子供達の声でした。
しかしよくよく考えるとアイヴァンはとんでもないゲス野郎ですよね。
映画の出来は秀逸でも、これだと不快感を抱く方も多かったのでは。
もう少しこの状況に追い込まれるまでに何とか出来なかったものか、奥さんがあんな対応したのは至極当然のことでしょう。
会社側の対応も概ね納得、でも彼の仕事に対する誇り、信念、決断力だけは共感できたかな。
まあ車で電話しているだけの密室劇なのに、いろいろと想像力を掻き立てられる展開には、何かとハラハラさせられたり考えさせられたりで、本当に見応えたっぷりでした。