「“ちょっとした偏見”が壊すもの」ズートピア 葵ヰさんの映画レビュー(感想・評価)
“ちょっとした偏見”が壊すもの
『ズートピア』1作目を、2を観る前にあらためて字幕で鑑賞した。
何度観ても思うけれど、この作品は「可愛いディズニー映画」の顔をしながら、かなり露骨に“差別”や“暴力”を描いている。
序盤、幼少期のジュディのエピソードで描かれるギデオンの行動は、正直かなり不快だ。
脅し、暴力、突き飛ばし、爪で頬を傷つける行為――これは「ちょっとしたいじめ」などではなく、完全に暴力であり犯罪だと思う。それを軽く扱っているように見える演出には、どうしても引っかかってしまう。
警官になりたいという夢を持っているだけのジュディに対して、あそこまで悪意を向ける理由がわからないし、だからこそ現実の理不尽さを突きつけられる。
だからこそ、その後の警察学校のシーンは本当に胸がすく。
努力を重ね、ウサギとして初めて首席(クラス総代的な立場?)で卒業するジュディは文句なしにすごい。努力だけでなく、才能もあったのだと思う。
ズートピアへ向かう電車のシーンは、何度観てもワクワクする。
動物ごとにサイズの違う扉や通路、ハムスター専用の道など、世界観の作り込みが細かくて楽しい。
一方で、警察署に入ってからも差別は続く。
クロウハウザーの「思ってたより可愛い」という第一声は、悪意がないからこそリアルで、見た目で判断すること自体が差別であると数秒で示してくるのがうまい。すぐに謝る描写があるのも良かった。
しかしボゴ署長の態度にはがっかりさせられる。部下の誕生日を祝う良い上司かと思わせてからの、ジュディへのぞんざいな扱い。首席卒業なのに違反切符係に回される展開は、あまりにも露骨だ。
ニックは初登場からとにかく可愛い。
特に耳の動き。感情に合わせて下がったり立ったりする耳が、演技として完成されすぎている。
アイス屋のシーンでは、差別を受けたときの耳の垂れ方が切なくも可愛いし、フィニックとの詐欺コンビはギャップの塊で何度観ても笑ってしまう。
ジュディがニックを脅して捜査に協力させる流れはテンポが良く、会話も小ネタも全部面白い。
陸運局のフラッシュ、ミスター・ビッグの結婚式、マンチャスの暴走シーンなど、コメディとしても完成度が高い。
中盤以降、ニックの過去や本音が見え始めると、この作品の切なさが一気に増す。
「世間が信用しないなら、そういうキツネでいる」というニックの言葉と、ジュディが腕に手を添える場面の距離感がたまらない。
ベルウェザー副市長(後の市長)は、単なる悪役として片付けたくない存在だ。
ライオンハート市長からのぞんざいな扱い、使い古しのマグカップのプレゼント――彼女が積み重ねてきた屈辱は、理解できてしまう。
やったことは許されないが、「救いがあってほしい」と思ってしまうのは、このキャラクターが丁寧に描かれている証拠だと思う。
中盤、ジュディがニックに「相棒が欲しい」と警察の申込書を差し出すシーンは、この映画屈指の名場面だと思う。
最初は脱税の証拠を録音するために使ったペンを、今度は申込書を書くために渡す――その対比があまりにも美しい。
脅しから始まった関係が、「一緒に働きたい」という信頼に変わる瞬間で、思わずうるっとくる。
正直、このシーンで終わってもいいと思えるほど完成されている。
だからこそ、その直後のインタビューでのジュディの失言が、より一層胸に刺さる。
ニックが申込書を返し、二人が喧嘩別れしてしまう展開は何度観てもつらい。
築きかけた信頼が、無意識の偏見によって壊れてしまう描写があまりにもリアルで、心が痛む。
街全体に差別と恐怖が広がっていく描写も容赦がない。
電車の中で、ウサギの親が子どもを肉食動物から遠ざける仕草は、現実そのものだ。
守りたい気持ちも理解できるからこそ、見る側はどちらの立場にも感情移入してしまい、切なさが残る。
それでも物語は、最後にきちんと希望を残してくれる。
事件が解決し、ニックが正式に警官となり、ジュディが胸にバッジを付けるラストシーンは本当に美しい。
一度は壊れた関係が、同じ場所には戻らなくても、より強い「相棒」として結び直される。
だからこの物語は、ただ仲直りする話では終わらない。
そして最後まで、ズートピアはズートピアのまま終わる。
世界は完全には変わらないし、ボゴ署長も相変わらず。でも、確かに前に進んだ。
この作品は、
子どもには「面白くて可愛い映画」であり、
大人には「面白くて可愛くて、考えさせられる映画」だと思う。
現実に存在する人種差別や性差別を重ねながら観てしまう、忘れがたい一本だった。
