劇場公開日 2015年11月6日

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「映像満点!感動要素は…」エベレスト 3D チャプ吉さんの映画レビュー(感想・評価)

3.0映像満点!感動要素は…

2015年11月27日
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まさに、観る映画ではなく体感する映画の典型的な作品である。
2013年12月公開の『ゼログラビティ』、2014年8月公開の『イントゥザストーム』を覚えているだろうか。ゼログラビティは低予算であのリアルさと迫力を生み出したことで話題となり、全世界で大ヒットを記録した『イントゥザストーム』は当初4DXシアターが普及し始めた頃であり、五感で映画を体験するという新しい映画の楽しみ方の一線となったに違いない。そして今年、本作『エベレスト3D』が公開された。しかし、前2作との決定的な違いがある。完全実話という点だ。実際にあった出来事を我々が体験するということだ。我々は本作のコピーにもある『地球で最も危険な場所』へ導かれるのだ。

私は映像を通してエベレスト登頂を体験をすることができることを期待し、TOHOシネマズ新宿IMAX3Dにて鑑賞してきた。
14日のTOHOシネマズデイであったこともあり、前日の段階でほぼ全ての席が埋まり、当日はもちろん満席という状況だった。TOHOシネマズ新宿の建物にも巨大なポスターを設置するなど宣伝はかなり力をかけていた方だと思う。

さて今回の点数に関しては非常に悩まされた。
まず、本作のコンセプトである『地球で最も危険な場所を体験する』という点。まさにこれは100点満点だったと思う。とにかく映画の迫力を超えておりIMAXでの鑑賞もあるかもしれないが、その場にいるかのような雰囲気、スリルを味わえる工夫がなされていた。エベレスト頂上からの絶景もスクリーンで観るとやはりすごい。壮大な音楽と鮮明な映像、また3Dならではのスリル感をかもし出す仕掛けにより何度か鳥肌が立った。とにかく映像は十分素晴らしかったのだ。
問題はストーリーである。
ストーリーは一言でいうと残念ながらいまいちであった。
これは予告編からも分かることであるが本作はエベレスト登頂達成にかけての試練を描いているわけではない。登場人物たちはエベレスト登頂を果たすことを目標として登山に臨むわけだが無論、登頂はゴールではなくストーリー全体の序章にすぎない。それ以後の下山中に起きるトラブルを描いている。映画において、例えば登場人物たちに試練がのしかかった時に、最後にその試練を乗り越え、彼らの心が何かしら変化することで、我々視聴者にも『感動』が生まれる。『感動』要素といってもさまざまであるが、本作に大きく感動させられたかと言われると素直にうなずけない。
もちろん、悲しい場面等で登場人物に同情し、涙を誘われるシーンもあった。しかし、その後すっきりするというわけでもない。試練が良い方向へと全く進まないのだ。むしろほんのちょっとした理由が原因で悪い方向へと一方的に流れるのだ。これは実話を基にしているため何とも言えないのだが、映画ならではの面白さ、感動要素がかけると思う。また多くの登場人物が出てくる点について、まず主人公という立場の人物は存在するのだが、多くの人々に同時に焦点が当てられているため、誰を中心に見たら良いのかが分からなくなる。全体的にドキュメンタリー要素が強いと感じた。また、登山シーンがほとんどで、皆フードとサングラスをかけて視界も悪いため、今映っている人物が誰であるか容易に判断がつかない。
先ほど良い点の一つとして映像についてを挙げたがらもう一点、配役は素晴らしかった。主人公の妻を演じたのはパイレーツオブカリビアンのキーラ・ナトレイである。彼女の演技からはやはり命をおとしてもおかしくない危険な試練に自ら挑む主人の帰りを遠く離れた家で待つという状況における心情が強く伝わってきた。また主人公を演じるのは『猿の惑星ジェネシス』や『ターミネータージェネシス』というダブルジェネシスにて演じたジェイソン・クラークだ。皆を率いる彼の姿は非常に勇ましく、見事な演技力であった。
さらに主人公からは本作のメッセージが捉えられる。人々の目標と期待、そして命を同時に預かることに対する責任感というものについて深く考えさせられたのだ。
一つ、お気に入りのシーンは取材も兼ねて登頂に挑む1人の男性が登山家たちに危険を冒してまでなぜ山に登るかという疑問を投げかける場面だ。是非とも彼らの答えに注目してみてほしい。僕自身大きな刺激を受けた。

驚いた点がある。主人公は窮地に陥った時、妻であるサラの名前を何度も呼ぶのだが、『ターミネータージェネシス』で彼が演じるジョンコーナーの母の名もまた皆おなじみサラ・コーナーなのだ。同じ名前である。しかも本作は実話であるため、完全なる偶然だ。

結論、映像技術の凄さと、エベレスト登頂という我々一般人とはかけ離れたテーマであるとともに、自然の壮大さ危険さを同時に体感できる、また主人公や登山家の考え方から学ばされることもある。劇場で観る価値は充分あると思った。

チャプ吉