「ハイスミス」ギリシャに消えた嘘 小二郎さんの映画レビュー(感想・評価)
ハイスミス
旅行中の初老の男(ビゴ・モーテンセン)と、その妻(キルステン・ダンスト)、ガイドの若い男(オスカー・アイザック)。
男二人が、女を取り合ってる風な話ではあるが、実のところ、女はどうでもいい。
冒頭でもラストショットでも、見つめ合うのは、男と男。
相手の男の後ろ暗さを、互いに一発で見抜く。コイツのズルさを判るのは、オレだけだという負の連帯感。モーテンセンはアイザックに自分の若い頃を見、アイザックはモーテンセンに自分の行く先を見る。だからこそ、出し抜き出し抜かれを、繰り返す。
女は、男達の後ろ暗さに目をつぶる。気づかない振りをする。その方が都合が良いから。そんな女を演じるキルステンが、非常に上手い。
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ハイスミス原作。
ブロマンスなんて言葉が無かった時代から、ブロマンスばかり書いていたハイスミス。ブロマンスというよりは、男同士の狂おしい共鳴と言った方が良いか。
見知らぬ乗客、太陽がいっぱいの映画化では、その部分を入れこむと話がややこしくなるのでストーリーには反映されていないが、男優陣が魅せる滴り(ロバート・ウォーカーなど特に)が、非常にハイスミス的で、ファンとしては、グハっとなる。
本作も、古臭いメロドラマ&ミステリの中で、静かなサイコを演じるモーテンセンが、非常にハイスミス的だなと思った。熱演!というよりは、ちょっと「軽さ」があって、そこも良かった。
アイザックが見せる、前半タクシーの中での酷薄な表情も、良かった。
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追記1:
古色蒼然とした映画の作りで、何だこれ?と笑ってしまう部分も無くはないが、それでも個人的には大変楽しかった(星の数甘めです)。
追記2:
ハイスミス原作の「The Price of Salt」も、ケイト・ブランシェット&ルーニー・マーラ主演で映画化されるそうだが、こちらは女性の同性愛の話らしい。
女性なのに、女性を嫌悪し、なおかつ同性愛者だったハイスミスが描いた物語は、どんななのか?ちょっと気になる。