「原作の面白さは活かせず」世界から猫が消えたなら 森泉涼一さんの映画レビュー(感想・評価)
原作の面白さは活かせず
余命をいきなり告げられた中で自身と瓜二つの悪魔が現れ、余命を一日のばす代わりに世界から一つ何かを消していくというファンタジー要素も絡めた最期の自分探しの旅である。
原作は日本映画のヒットメーカーでもある川村元気執筆の同名小説。原作が大ヒット、映画化で大失敗となるのが今の邦画のながれであるが、本作も見事にそのながれにのってしまうはめになる。
原作は消したものに対して一つのストーリーがしっかり固められ、それぞれの派生したストーリーが最後に集合体となって自分探しの出来事に絡み合ってくる淀みのない物語である。
対して映画は宮崎あおい演じる彼女が序盤から登場し、まるで二人のラブストーリーのような入り方をする。携帯や時計が消えていき濱田岳演じるツタヤとの思い出も瞬殺され、かと思えばちょいちょい出しゃばってくる彼女の存在が原作との違和感を感じ始めてしまう。
ラストの海岸での悪魔との会話で佐藤健演じる主人公は本作のテーマの根幹でもある大事なワードを発するが、これも原作では序盤から物事を緻密に描いたうえでの納得いく言葉である。映画では家族の物語に対してだけのラストの言葉であり、これまで消したものに対してこの言葉に乗っかるのは図々しく逆に呆れてしまう。
最近、幅広くアクションやドラマで活躍している佐藤健も本作の主人公を演じるのは荷が重すぎた印象がある。寡黙で自身の思っていることをうまく表現しないタイプである主人公、対して悪魔は強気で押し切るタイプであり二人の性格は両極端である。この二人が対峙するシーンはある意味で俳優の力量が試されるシーンでもあると思うが、彼が演じると片方は面白くてももう片方には魅力を感じない。元々人間性が違いバランスが悪い会話を交える二人を演技力でカバーして面白くするはずが、違和感を感じ始めてはまだまだ未熟なのかキャスティングミスだと思うしかない。