いや~面白かった。
本作品でも最後の方に出てくる「坂網猟」に関して、「伝統鴨猟と人々の関わり 加賀市片野鴨池の坂網猟」という映画を、自分は観たことがある。
湿地から飛び立つカモを、投げ網で捕らえる猟法だ。
「坂網猟」は現在も行われているため、「野鳥の会」とのせめぎ合いなどの話が中心だった。
しかし、本作品の「カスミ網猟」は、今は研究目的以外は“禁止”されており、遠い過去の話だ。
確かに、やり方次第で大量に捕れてしまうので、鳥獣保護の観点から、禁止は納得できる。
監督は、今では知る人も少なくなった、祖父から聞かされた昔の話に興味をもち、探求の旅を始める。
一つ解決すると、また次に疑問が浮かぶ。
そういう素朴な疑問の連鎖を、一つ一つ解き明かしていくという、問題解決の王道を行くような作品だ。
そのためダレることなく、最後まで楽しんで観ることができた。
Q1 山の向こうの“鳥の道”とは、そして「鳥屋(とや)」とはどこなのか?
Q2 実際の「カスミ網猟」は、どのように行うのか。“木の実”と鳥との、密接な関係性は?
Q3 冬に日本に飛来する渡り鳥(「冬鳥」)は、どうやって来るのか。
Q4 上空の鳥を呼び寄せる「囮(おとり)」と、その鳴き声とはどういうものか。
Q5 他の伝統猟法である「坂網猟」について。
Q6 東濃(岐阜県南東部)の猟師が、他地域に出稼ぎに行った理由は何故か? 実態はどうだったか。
Q7 “禁止”された後も、50年も止まなかった「密猟」の実態はどういうものか。
ダラダラとインタビューが続くのではなく、必要に応じて写真や図が示され、とても分かりやすく作られている。
「カスミ網猟」の現場を見るために、「山階鳥類研究所」に赴いて、時刻や鳥のサイズによって変わる猟法を取材する。
戦後のGHQによる「カスミ網猟」禁止の経緯と、密猟者との戦い。
「四つ足動物」を食べない東濃の文化と、贅沢なタンパク源としての美味しい“焼き鳥”。逆に他地域では、昔は鳥なんて食べなかったそうだ。
特に、3種類の「囮」の鳴き声と、“季節外れ”に鳴かせるための飼育法のテクニックのところは、非常に興味深かった。
各地の文化や歴史についても取材しており、必ずしも“サイエンス映画”とは言えないが、明晰で科学的なアプローチが素晴らしい作品である。
自分でも理解できたくらいだから、科学の予備知識は不要だ。
自分としては、サイエンス関連では、1年半前に観た映画「流 - ながれ」以来、最も面白かった高品質の映画だった。