「そうめんカボチャと玉子焼」映画 深夜食堂 カールⅢ世さんの映画レビュー(感想・評価)
そうめんカボチャと玉子焼
2022年5月1日のJcomでの放映(ノーカット)を視聴。2015年公開の本作、小林薫がこわもて(左目に縦の切りキズあり)のマスター役。テレビドラマのシーズン1(2009年)を全部ではないが見ていた。とても好きな作品。ドラマを見ていると、常連客の背景も重ねて楽しむことができて、厚みが増すこと請け合い。小寿々(綾田俊樹:卵焼き)と剣崎竜(松重豊:タコさんウインナー)、マリリン(安藤玉恵:ミディアムレアの焼たらこ)、お茶漬けシスターズ、忠さん(不破万作:小林薫とおなじく状況劇場出身の名脇役)、小道(宇野祥平)、ゲン(山中崇)、刑事の野崎(光石研)とペアの篠原ゆき子、交番の巡査(オダギリジョー)、洲崎飯店のオカモチ(野嵜好美)など。
そして、2020年7月に食道癌で亡くなった鈴木常吉によるテーマソング「思ひで」の素朴で悲しげなメロディーが独特の味わいをかもし出している。鈴木常吉のアルバム「せいご」は高田渡、忌野清志郎から絶賛されたという。今頃、あの世で仲良くやっているかな?
【ナポリタン】【とろろご飯】【カレーライス】の3部構成。冒頭、マリリンがお土産の鯖寿司を出そうとして見つけた、紙袋に容れられ店の隅に放置されていた誰のものかわからない骨壺が最後の【カレーライス】のサブモチーフとして後々効いてくる構成になっている。
【ナポリタン】
不動産会社社長のパトロンが心臓発作で急死して、遺産の一部を貰い損ねたオメカケさんの(高岡早紀)と若いお客さんのはじめくん(柄本時生)が急接近。ナポリタンは小さい頃のごちそうだったと話す高岡早紀。いっしょに住む計画を立てるほどだったが、パトロンの遺産を貰えることになって、あっさり棄てられる。はじめくんはお城のプラモデルが趣味のオタクだったが、お別れにワインを持ち込んで来た高岡早紀にわざとプラモデルを壊される。常連客から総すかんを食って、めしやをあとにするに高岡早紀がゴールデン街の店に寄り、テナント料(みかじめ料?)7万三千円を集金する。歌舞伎町の不動産会社の賃貸物件の権利を相続したのか、しっかりしてる。
みかじめ料だとしたら、やくざの親分の妾になったんでしょうね。
小道が桜の塩漬けを自作して、一儲けしょうとしたのをからかわれるシーンがあるので、春。
【とろろご飯】
新潟の親不知から東京に流れ着いたみちる(多部未華子)。汚い服に煤汚れた顔。首からタオルをかけている。みちるはとろろご飯を頼む。マスターがとろろご飯用の麦飯を店の裏で土鍋で炊いている隙に先に出された三品を急いで食べ、無銭飲食をしてしまう。しかし、数日して謝りに戻って来た。お詫びに働かせてくれと申し出る。マスターは右手の腱鞘炎が悪化していた為、包丁三本を鮮やかに研いでみせたみちるを期間限定で採用。夏の暑いなか、汗臭いみちるに風呂代を渡して、銭湯♨️に行かせる。みちるの作った卵焼きをマスターが作ったと思う常連客たち。たまに来る料亭の女将千恵子(余貴美子)にも一目置かれた。店の二階に住込みで働き初め、仕入れの先の八百屋へも。新潟名産のそうめんかぼちゃ(糸かぼちゃ)を見つけ購入。マスターに料理を披露し、常連客からも好評を得る。新潟弁丸出しで、夏バテで食欲がないときお婆ちゃんがよく作ってくれたんですと言う。可愛過ぎ。みちるは親不知の居酒屋に勤めていたときに長谷川という男(渋川清彦)に騙され、貯金を下ろされ、失踪されて、ゴールデン街にたどり着いたのだった。しかし、その長谷川がみちるを追って、暖簾をくぐって来た。交番巡査のオダギリジョーが咄嗟にみちるの恋人役の芝居を打って、長谷川を追い出す。料亭の女将の千恵子はマスターにホノ字で、二階に住み込みのみちるに手を出してないか気にしている。常連客の接骨院に行ったらすっかり腱鞘炎が良くなったマスター。なめろうを叩くマスターを見て、悲しげなみちる。両親が生まれて直ぐ離婚し、祖母に育てられたみちる。子供の頃の母子家庭の同級生のヒデコちゃんの話。中学生2年の時に母親が亡くなり、香典の代わりに卵焼きを作ってヒデコに持っていった話。泣けます。「その卵焼き、また誰かのために作ってあげてね。」割烹着姿の多部未華子が素敵。余貴美子の料亭に引っ張られる。めしや最後の日、「みちるちゃん、今日が最後だから、食べたいものがあったら言ってよ。作れるものだったらなんでも作るよ」と、いつものセリフに、とろろご飯を頼むみちる。きっと、お婆ちゃんの思い出味なんでしょうね。満を持したのように鈴木常吉の思いでが流れます。多部未華子がたべ終わると、屋台でみちるが買った風鈴を小林薫が、これ、貰っていいかな?この音がないとなんだか落ち着かなくってねと言う。銀杏の話も出てきて、すっかり秋。
【カレーライス】
常連のサヤ(平田薫:唐揚げとハイボール)がボランティアに通う東日本大震災の被災地で世話になった先輩ボランティアのあけみ(菊地亜希子)を連れてきた。妻を津波で亡くし、仮設住宅に住む謙三(筒井道隆)は親切にしてくれるあけみに惚れて、プロポーズしてきたが、あけみは気が乗らなくて、最近は行っていない。とうとう、謙三は新宿のめしやまでやって来た。観光バスのバスガイドを始めたサヤのバスに乗って来た謙三。上野駅の集団就職の説明の下りで「金の卵」の卵が出ない。一番前に座った謙三が「玉」と教える。そのまま「金の玉」と言ってしまうサヤに乗客がどっと沸くサービスシーンあり。
前に踏み出すためにあけみにすがりつこうとする謙三。上司との不倫の傷を癒そうとボランティアを始めたことをマスターに打ち明けたあけみ。
マスターは例の骨壺をお寺で供養することに、前の晩、安置していた二階から宇野祥平が下ろして来て、カウンターに置いて供養に皆で飲もうというが、謙三は皆で呑んでいるだけじゃ意味がない、仏さんにも飲ませてやると言って、いきなり忠さんの徳利の酒を逆さまにして骨壺にぶっ掛けた。忠さんたちが怒って、仏さんに失礼だと言って揉める。骨壺の蓋を開けると中には骨はなく砂のようなものが。謙三は遺体が見つからない妻の骨壺に思い出の砂浜の砂を入れたから、気持ちがわかると。そして、前に足を踏み出すために、偽物の骨壺を店に置いていった人の気持ちもわかると。でも、こんなことでしあわせになれるはずないのに誰かにすがりつきたかったんだと言う謙三。店の裏でそれを聞いていて、へたりこむあけみ。
菊地亜希子。綺麗な人ですね。惚れてしまうのは当然ですよね。多部未華子に雰囲気も似ています。やけ酒に酔いつぶれた謙三を泊めてあげて、翌日、カレーライスを謙三に「うちのカレーは二日酔いに効くんだよ」と差し出すマスター。あけみのカレーライスと同じだと気が付く謙三。あけみは炊き出しのカレーライスの作り方をマスターに教わっていたのだ。バスで被災地に帰って行く謙三を見送るサヤとあけみ。またカレー作りに行っていいですかと聞くあけみ。是非ともお願いしますと答える謙三。二人とも、改めて踏み出せそうでよかったね。
ハロウィン🎃のカットのあと、後日、骨壺の持ち主(田中裕子)が店に現れる。
愛人を作っていなくなった元旦那(アパートで孤独死)が大事にしていた甲子園の土だと言う。本人の骨はどうしたんでしょうね。くさい芝居(セリフ)の田中裕子がこれまでのいい雰囲気をかき乱した感じがして、残念だった。蛇足だった。いらんかったよ。
小雪のちらつく師走の夜。集まった常連客のもとにみちるがお重に炊き合わせを作って届けに来た。マスターはお礼になんか作るよと。みちるが頼んだのはまた【とろろご飯】だった。そこへまた、「思いで」がエンドロールとともに流れる。
泣けるねぇ。