「美味しい下町人情話と庶民料理に舌鼓」映画 深夜食堂 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
美味しい下町人情話と庶民料理に舌鼓
東京繁華街の片隅で、深夜にだけ開く食堂“めしや”。
マスターと、常連客たち訳あり客たちが織り成す悲喜こもごもの人間模様。
コミックを基にしたTVドラマの劇場版。
コミックは未読でTVドラマも未見だが、難なく作品世界に入って行ける。
と言うか、こういう人情劇が好きな自分にとっては、ドンピシャ! 美味しくお腹満たしてくれた。
口コミ人気は知っていたが、納得!
まずはこの雰囲気。
大都会の中へ中へ入って行くと、まるでタイムスリップしたかのように残っている昭和下町風情。
間違いなく現代が舞台なのに(東日本大震災や東京オリンピック2020などの背景あり)、昔ながらの氷屋が登場した時は、昭和かよ!…と。
まだまだ残ってるんだね。
そんな路地裏の店並びの中に。見落としちゃうくらい、ひっそりと。
開店は深夜12時。暖簾をくぐって中に入ると、古ぼけてこぢんまり。
だけど、それがまた乙な味。
メニューは数品しかないが、マスターが作れるものなら何でも作ってくれる。
今にも潰れそうに見えて、客足は悪くない。
この雰囲気や美味しい料理もあるが、それもこれもマスターの魅力。
こういう昭和風情の小さな店の店主って、昔気質で頑固なイメージ。
確かに口数は多い方ではないが、とにかく温かく優しい。
お節介はしないと言いながらしてしまう。面倒見が良く、困ってる人が居たら放っておけない。
THE人情男!
見守ってくれる眼差しに安心させられる。
客は皆、このマスターに会いに来るんだろうね。
小林薫が好演!
TVドラマからの常連客も顔を見せているらしいが、映画オリジナルのエピソードやゲストが初来店。
最近パトロンと死別したばかりの色っぽい愛人。冴えない風貌の年下男といい感じになるが…。
福島の被災者の男性とボランティアの女性。男は彼女を追って東京にまでやって来て…。
冒頭から店に置き忘れの謎の骨壺。やっと現れたその持ち主とは…。
高岡早紀、柄本佑、筒井道隆、田中裕子ら実力派揃い。
どのエピソードもユーモアありちょっぴり切なかったりしみじみさせるが、やはりみちるのエピソード。
ある日、無銭飲食した若い女性、みちる。
後日、謝罪と迷惑掛けた分働いて返したいと申し出る。
マスターは腱鞘炎になった事もあり、住み込みで手伝って貰う。
包丁を綺麗に研いだり、料理の腕も上手い。
無一文でネットカフェに寝泊まりし何日も風呂に入っていない。
彼女に何があった…?
聞けば、店を持たせてやる…と、男に騙された田舎娘。よくあるっちゃああるが、やはり同情してしまう。
騙した男に居場所を突き止められ現れるが、きっぱり断ち切る。
マスターや常連客たちとの出会い、ここの穏やかな暮らしで自信がついた生き方に悩む若者の成長と再出発。
マスターの馴染みの女将さんの計らいで、女将さんの店で料理人見習いとして働かせて貰う事に。
お世話になったマスターとの別れ。
これ一本で話が見たかったくらい、まるで寅さんでも描かれそうないい話。
多部ちゃんも好演。
幼馴染みのヒデコちゃんの事を語るシーンの表情や演技は秀逸であった。
各エピソードに伏線や繋がりは無く、淡々と代わる代わる語られていくだけ。
劇的な事件や展開も無く、毎度の事ながらこの手の作品がお気に召さない方には退屈かもしれない。
確かに絶品料理ではないが、誰もが美味しいと思える庶民的な味。
甘い卵焼き、タコさんウィンナー、ナポリタン、とろろご飯、カレーライス…どれもこれも食べてみたいマスター特製料理。
ごちそうさま!
また食べたい。