「19世紀初めのロッシーニのオペラはその後のヴェルディーに比べ秩序観が強くバランスの良い音楽と言って良い。」METライブビューイング2014-15 ロッシーニ《湖上の美人》 kthykさんの映画レビュー(感想・評価)

4.019世紀初めのロッシーニのオペラはその後のヴェルディーに比べ秩序観が強くバランスの良い音楽と言って良い。

2015年9月14日
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19世紀初めのロッシーニのオペラはその後のヴェルディーに比べ秩序観が強くバランスの良い音楽と言って良い。

ベートーヴェン以降のロマン派音楽を聴き慣れている我々は音楽は感情表現、オペラは特にドラマティックな悲劇であることが多いが、それはヴェルディやプッチニーの世界だ。ロッシーニの「湖上の美人」は18世紀のモーツァルトに近いがブッハでもセリアでもなく、オペラ・セミリアと言われている。

ヨーロッパ社会がアンシャンレジームの持つ激情的・反動的な感情に満たされたとき、音楽は一気に古典派からロマン派への道を歩む。

しかし、19世紀のはじめナポレオンの登場に呼応して、イタリアのロッシーニはむしろ前代に近い安定した秩序観を持ったオペラを作っている。

モーツァルトに近いロッシーニのこの物語もまた王の許しで完結する愛がテーマ、後宮からの逃走によく似た構成でめでたしめでたしで幕を閉じる。

しかし、スコットランドの王とその王に反旗を翻す高地の人々、夜明けの湖上から始まる愛と革命はウイリアム・テルに似て叙事的でもあり情感も深い、豊かなベルカントのアリアが数多く響く。

オペラは二人のメゾソプラノと二人のテノールの競演。

今回のメト・ライビューイングではロッシーニ・オペラには欠かせないダニエラ・バルッチェローナが圧巻だ。

彼女の低音が効いたリズミカルなコロラットゥーラは主役のディドナートやハイCのフローレスを超え、終幕で愛を勝ち取るマルコムの歌声は気持ちよく、美しく、素晴らしい。

kthyk