くるみ割り人形 : 映画評論・批評
2014年11月25日更新
2014年11月29日より新宿ピカデリーほかにてロードショー
35年もの歳月を遡及する増田セバスチャンとサンリオとの出逢い
1979年、サンリオ創設者で現社長である辻伸太郎が自ら脚本を書き下ろし、実写アニメという1日たった3秒の撮影しかできない手法を取ったがため、5年もの歳月と7億円もの巨額製作費を費やしたサンリオアニメ「くるみ割り人形」。そして、その名作を元とし、kawaii文化の第一人者の増田セバスチャンが初監督、3D映画として完全にリ・クリエイトしたのがこの作品。
原作はP.I.チャイコフスキーの不朽の名作バレエ「くるみ割り人形」とE.T.A.ホフマンの「くるみ割り人形とねずみの王様」。バレエ/演劇史上、度重なる解釈がなされ、そのつど演出や主題が変化し、つねに変容し続ける作品。ホフマンの日本語版を訳した種村季弘にして「善悪、美醜、エレガントで胡散臭い、それらが未分化であり、両方であるのが“子供の世界”」と言わしめた原作。
劇中、クララは時計修理師であるドロッセルマイヤーさんから不恰好なくるみ割り人形を譲り受ける。しかしその人形がネズミたちによって連れ去られ、クララはドロッセルマイヤーおじさんをの幻影を追って古時計の中に入り込んでしまう。そこには人形とねずみの戦争や時のない村、マルチパン王国などを経て、くるみ割り人形にまつわる過去を知り、「本当の愛」を証明していくクララの成長物語がある。それに増田セバスチャンのリ・クリエイトが加わることにより、さらに夢と現実、善と悪、生と死、デジタルとアナログがより混在し未分化になる。
すでにそこにある物事の事象から過去を求めて遡及すること。クララが手元にある未完成の人形からその過去を遡及し、自分の物語を紡いでいくように、すでに35年前に製作された実写アニメを出発点とし、そこから限りなく遡及して、自身の作品を作り上げてしまう増田セバスチャンの手法。描かれている物語と製作の姿勢がこれほど一致している作品も多くはないだろう。
(ヴィヴィアン佐藤)