「飛ばされて火に入れられる夏の虫」グラスホッパー 浮遊きびなごさんの映画レビュー(感想・評価)
飛ばされて火に入れられる夏の虫
発行部数140万部突破、伊坂幸太郎のベストセラー小説の映画化だそうだが……毎度の原作未読ですみません。
伊坂幸太郎原作の映画は『ゴールデンスランバー』と『重力ピエロ』しか観たことが無いし、
小説の方は全く読んだことが無いが、少なくとも僕はこの方が原作の映画とどうも相性が悪い。
先の2作品の印象がイマイチなのであまり進んでこの方の原作映画は観ないのだが、
今回は『犯人に告ぐ』の瀧本智行監督、生田斗真や浅野忠信といった主演陣に惹かれて鑑賞。
しかしながら結論から書くと、印象はイマイチの2.5判定だ。
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鈴木・“鯨”・“蝉”の3主人公を中心に登場人物たちが一堂に会する流れは
傑作『ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルス』などをやや連想させるが、
あの作品のように多彩な登場人物たちをまとめ上げた巧みな構成!というより、
全てが作り手によってキレイに御膳立てされた出来レースに終始してる印象。
最後に事件の全容が語られるが、色々と都合の良すぎる設定なので驚きも巧みさも感じない。
一例を挙げれば、最後に少年の正体が分かる流れ。
あのシーンには涙腺を生理的に刺激されはしたものの、
思えばあんな小さな子どもを危険な仕事に参加させる“互助会”はとんでもないし、
そもそもあの少年が“互助会”に参加していた経緯が分からない。
実はあの事件で身内を亡くして参加してたとか? それともボランティア? あんな小さな子が?
それと台詞だ。
決め台詞のようなダイアローグも適材適所で登場すればまだ良いが、
この映画の台詞の半分がそんな具合なので、面倒臭いしリアリティがない。
人間味のあるフツーの会話が聞きたい。
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本作の肝であろう、群生相のトノサマバッタに関するキーワード。
『密集化した群集は欲望に忠実で凶暴になる』という言葉。
これも、匂わせぶりではあってもどこに掛かっていたのかがピンと来ない。
推察してみるに、
利益の為に無差別大量殺人を行うヤクザ連中、
人間をごろごろと排除してゆく冷酷な殺し屋たち、そして
人の死を面白がってSNS投稿するような、感覚の狂った群集。
そんな人を人とも思わないような “グラスホッパー” どもに囲まれる内に
心優しい主人公も凶暴になりかけるが、亡くなった恋人の自己犠牲によってぎりぎりの所で踏み留まる。
……という流れにしたかったのだろうか。
しかしながら、鑑賞中はそういう流れを感じられなかった。
ヤクザ連中や殺し屋が序盤以外はいまひとつ冷酷で恐ろしく見えないし、
人の死をネタにする群集という視点の描き込みもあまりに薄い。
そして「復讐のことばかり考えていた」と言うほどには、主人公・鈴木の
暗い怒りが感じられない。寺原Jr.が死んだ時も、遂に寺原と対面した時も。
それどころか彼はやけにのんびりしている。
付近まで組織にGPSで追跡されていたと分かっていながらサッカーやったり食事したりしてるし、
“押し屋”一家への警告もさっさとしないと奥さん子どもが危ないだろと余計な所でハラハラする。
最後に残りの2主人公にも少し触れておくと、
殺し屋“鯨”は幽霊に苛まれているとはいっても
凄腕と呼ばれるには仕事が粗過ぎるし、最後もノープラン過ぎ。
行動にいくらか納得いくのは“蝉”の方だが、生きている実感を得る為に人を殺す彼の空虚さが伝わり辛い。
相棒・岩西との絡みばかりでは、彼は人間的に見えすぎてしまう。
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以上。
役者陣は豪華だし、最後まで眠くなることもなく観られたが、
話の流れも、登場人物の性格や行動も、なんというか、作り物臭いと感じる。
登場人物達が動いているのではなく動かされているという、この感じ。僕はあまり好きではない。
なのでまあ、文字通りの虫の良い話。
<2015.11.08鑑賞>