「罰せられず、罪を背負ったまま…」悪魔は誰だ 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
罰せられず、罪を背負ったまま…
これまた見応えある韓国サスペンス。
時効を題材に、事件捜査の醍醐味や被害者遺族の悲しみや執念など、これぞ韓国サスペンスの味とでも言うべき安定の面白さ。
15年前の少女誘拐殺人事件が時効間近。
娘の母親は今も事件に囚われ、担当刑事も最後まで諦めていない。
そんな時、母親や刑事や犯人しか知らない被害現場に一輪の花が置かれた事から、止まっていた事件が進展。
遂に、犯人と思われる人物が目の前に…!
ずっと進展していなかった迷宮入り寸前の事件がまさかの一輪の花で…。
ご都合的と言うなかれ。
暗闇に灯された一筋の光。
事件が動いたのは些細なきっかけなのは、何も珍しい事ではない。
が!寸での所で犯人を取り逃がしてしまう。
そして無情にも、時効が成立。
この時の刑事の悔しさは計り知れない。目前に犯人が居て、今まさに胸ぐらを掴まんとしていたのに…。
責任を取って、刑事を辞める。
それ以上に無念は、母親。全てが終わった。
そんな時…
15年前と全く同じ手口で少女が誘拐される…。
中盤までは事件捜査モノ。
テンポも良く、グイグイ引き込まれる。
ここから、意外な展開に。
再び、捜査に戻った刑事。
今回の事件の犯人を捕まえる。
その犯人は何と、少女の祖父であった…!
上層部はこれで事件解決とするが、刑事は納得いかない。
そもそも15年前の事件では全く足取りも残さなかったこの犯人が、今回に限ってはボロを出し過ぎ。
引っ掛かる脅迫電話の音声など腑に落ちない点が多々。
その脅迫電話の音声がヒントとなり、刑事は思わぬ人物を真犯人として突き止める。
15年前、娘を殺されたあの母親だった…。
まさしく娘を失った母親の壮絶な執念。
たった一人で事件を調べ、たった一本の傘から遂に憎き犯人を見つけたのだ。
冒頭の録音テープや刑事の携帯にかけた留守電などの伏線も効いている。
15年前娘を殺した犯人は、今回誘拐された少女の祖父であった。
時効となり、もう法律で罰する事は出来ない。
ならば、自分が罰する。
同じ手口で、同じ苦しみを。
かと言って、少女を傷付ける事はしなかった。やはり、母親なのだ。
この母親の悲しみには同情する。
刑事に涙ながらに訴えるシーンは胸に迫る。
でもやはり犯罪だ。他に方法は無かったのか…。
刑事は15年前の事件の犯人と対面する。
罪を認めさせる。
その身勝手な犯行の動機。
自分の娘さえ助かれば、他人の母親や娘はどうなってもいいのか。
そのせいで、母親は15年も苦しみ、犯罪に手を染めてしまった。
この男を罰する事は出来ない。
が、罪を背負わせる事は出来る。
罰せられるより重く、永遠に、死ぬまでずっと。
母親が今回の事件の真犯人だった事は刑事だけの秘密に。
復讐を果たせ、一見ハッピーエンドのようだが、自分には苦い終わり方に感じた。
この母親も同じなのだ。
罰せられる事は無く、罪を背負ったまま…。