「ルックの緩さが現実の残酷さを際立たせる作品。」FRANK フランク Opportunity Costさんの映画レビュー(感想・評価)
ルックの緩さが現実の残酷さを際立たせる作品。
良かった。
端正な顔立ちの印象が強いマイケル・ファスベンダーが。
厚紙を張り合わせた雑な被り物で自身の武器を封印。
何で勝負するのか。ナニで勝負するのか。
ジョージ・クルーニーが絶賛した自前のゴルフクラブか。
…などと考えていましたが。
蓋を開けてみれば厳しく残酷な話でした。
人間の顔を模した奇妙な被り物をするフランク。
何かしらの事情があるのは明白ですが長年のメンバーも素顔と事情は知らない。
問題行動は多いが、信念のある行動は周りの人間を惹き込み巻き込んでいく。
そんな彼の音楽は計算された奇妙奇天烈。
複数の楽器が奏でる音はバラバラに聞こえつつも或るタイミングでピタッと合う。
不思議な魅力に溢れているが一般ウケはしない。
彼の中で確立した音楽をメンバーが猛練習して寸分違わず紡ぎ出していく。
そんな彼とメンバーに惹かれて加入する青年ジョン。
フランク達とのバンド練習の中で天才に刺激を受けて、憧れを持ち、自身の表現を作り出そうとする。
ヌルい凡作であればジョンの音楽的な成長と成功を描くと思いますが。
本作では厳しく残酷な現実を突きつけます。
圧倒的な天才、だが世間には認められ難い天才フランク。
彼を理解して、それでも憧れ信頼を寄せて付いていく長年のメンバー。
フランクにも長年のメンバーにもなれないジョン。
そんなジョンの一連の行動は一見利他的ですが…根本は利己的。
音楽をする理由もバンドメンバーとは決定的にズレている。
それが周りの人間に見透かされている点が痛々しい。
或る事件を経てフランクの出自に触れることになった際も。
自身の言い訳と未来への微かな希望を粉々に打ち砕かれて更に痛々しさが際立っていました。
ルックの緩さが現実の残酷さを際立たせる本作。
才能の無い人間が無垢な天才に憧れ呑み込まれていく姿を描いており、その結末はジョン視点では非常に苦いモノとなっています。
「被り物がシュールで可愛い」なんて甘い気持ちで観るとカウンターを喰う作品です。
オススメです。