「聖地巡礼じゃなくて、時々帰ってきたくなる。」小川町セレナーデ とみいじょんさんの映画レビュー(感想・評価)
聖地巡礼じゃなくて、時々帰ってきたくなる。
かわさき街おこしシネマプロジェクトの協賛をうけた映画だとか。
川崎を派手にPRしているわけではなく、他の街でも通用しそうな物語。
シングルマザーや、孤独を抱えた幅広い年齢の人々や、様々な性的嗜好を抱える方や、恋に破れた女、そして子どもまで、様々な人々が、いろんなことがありながらも、受け入れられる町。いつのまにかほっこりできる町。
歌舞伎町的なショービジネスで盛り上がるだけではない。年寄りの居場所にもなれる。
となると、どこにでもあるわけではない。
性同一性を扱っているが、そのことに対してのメッセージは特にない。しいて言えば、偽オカマバ―を開こうとしているメンバーに、母が「フリなんてだめ!!!安易に考えるな!!!」と怒り狂う場面が、性同一性障害の方々への想いを表現していると言うことか。
小さな、小さなエピソードで、人を愛すると言うこと、家族、ってどういうことなんだろうと、じんわりくる映画。
そして、最終的に、しょうがないなあ(笑)というやるせないエピソードと共に、ほっこりとくる映画。
役者が秀逸。
安田さんは他でも魅せる怪演の中でもさらに群を抜き出ていると思うが、
同時に、私的にあまりなじみのなかった須藤さんに釘付け。
他にも、パリスとか、ミッシェルとかも捨てがたい。
特に、映画が始まってすぐのショ―は本編を劇場で鑑賞したくなる。
白黒の美。
映画全体、特に前半の展開がもたついているというレビューも見受けられる。
確かにね。
ただ、微妙なのが、
その展開の素人っぽいもたつき感が、ショーの素人っぽさと相まって、
ほっこり感を出していて、映画全体の雰囲気にも影響を与えている。
シャープに、必要な場面だけを切り取っていったら、この映画のよさも一緒に切り取ってしまうような気もする。
この無駄に思える部分を拾い集めているそんなところが、
無駄な存在かもしれない、無駄なことばかりやってきたかもしれない、人生を要領よく生きてこられなかった私の部分の琴線に触れるんだろうな、とも思う。
自分の人生に必要・大切で譲れないことと、世間の波にのることって違うから、人生苦しい。でも、世間の波にのることだけがいい人生じゃないよね、って、産まれた性を捨てた人とその人の子をシングルで育てる覚悟をして育てた人を観ていると思う。
感動大作に作り変えることもできるんだろうけれど、
このまんまでいてほしい。
とは言え、唯一、難を挙げるならラーメン屋のシーン。
エピソード的には、にんまりしてしまう秀逸のシーン。安田さんの一つ一つの表情に魅入られる。
なんだけど、なんでラーメン食べた後の割りばし、揃えておかなかったかなぁ。自宅で、あれだけ調度とか、紅茶をポットでいれる仕草とか、様々なことに拘っている様が映し出されるのに、あの箸の始末。残念。
と重箱の隅をつつくようなことはさておいて、
心の奥底に大切にしまっておきたい小品です。