劇場公開日 2015年5月9日

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「江戸の息遣いを感じる」百日紅 Miss HOKUSAI 近大さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0江戸の息遣いを感じる

2015年11月30日
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鑑賞方法:DVD/BD

泣ける

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杉浦日向子の漫画「百日紅」を原恵一監督が映画化。
葛飾北斎の娘で浮世絵師・お栄を主人公に描く江戸の人間模様。
杉浦日向子も原作漫画も知らず、原恵一の新作という事で期待していた(いつもながらの)スーパーミーハー(>_<)

橋の上を行き交う人ゴミの中をお栄が凛と歩き、江戸の風景を写し出し、今風のBGMがかかるオープニング。
スッと江戸の世界に引き込まれる。
原作者・杉浦日向子は江戸風俗研究家でもあったとか。
市井の人々の営み、生活感ある町並み、言葉遣いに至るまでその賜物。
そこに原恵一の緻密な演出。
Production I.Gによるクオリティ。
この組み合わせなのだから見事なのは当然。
これほど江戸の息遣いを感じさせるアニメーションは(個人的には)記憶に無い。

実写のようなキャラ造型・描写の原演出。
花魁の艶かしさ。
頬の痩けたお栄は生活の貧しさを感じさせ、キリッとした眼差し、画を書く時の真摯な表情、病弱の妹への優しさ、密かな恋慕…仕草や心情が素晴らしい。
表現が豊か故、江戸っ子言葉で今風に言うと男前なお栄がとても魅力的。

ただの江戸風俗譚だけじゃなく、竜や妖怪などの伝奇モノの要素も。
江戸の世界観とマッチし、幻想的な効果を上げている。
これらも原作通りなんだとか。
先日見た「桜姫」の突然の伝奇描写には失笑したが、題材もあるだろうが、演出の巧みさやセンスの違いだと感じた。
また、「クレヨンしんちゃん」時代から原作品に共通する家族のドラマ。
口では貶すが、浮世絵の師としては敬う父との関係。
病弱な妹のエピソードは“優しく温かく”感動的。

最初どうしても気になってしまうのが豪華俳優による声。
杏は美人で性格も良さそうで好きだが、演技は格別巧いというほどでもないので、声の演技も…。
松重豊も濱田岳も高良健吾もどうしても顔が浮かんでしまう。
しかし、次第に違和感は無くなってきて、この顔触れで実写で見たいような気も…?

時間は90分。
なのでカットされたエピソードは膨大だろうし、展開は淡々。最後もあっさり。
物足りない…と言うより、もっと長く見ていたいと思わせる秀作原アニメーション!

近大