「マネシカケスはもう鳴かない」ハンガー・ゲーム FINAL:レボリューション 浮遊きびなごさんの映画レビュー(感想・評価)
マネシカケスはもう鳴かない
2012年公開の第1作から数えて4作目。
残忍なゲームをきっかけに、独裁国家と戦う反乱軍の
アイコンとなった少女カットニスの闘いが遂に完結。
もとはカットニスが妹を救う為に始めた闘い。
それがいつしか国全体を巻き込み、13地区VS首都
(キャピタル)の総力戦、そしてカットニスをめぐる
プロパガンダ合戦となっていったのが大きな流れ。
この“プロパガンダ合戦”という要素がシリーズを重ねるごとに
色濃くなっていった訳だが、個人的にはその点が面白かった。
戦争や政権争いに勝利するにはいつの世も
「私は正義であり貴方の味方です」という
プラスイメージを民衆に植え付けることが重要で、
マルチメディアはその為の強力な兵器に成り得る。
カットニスをジャンヌ・ダルクのような民衆のヒーロー
に仕立てて士気を高め、彼女を擁護する自身のイメージ
をも向上させようとする13地区のコイン大統領。
逆に、カットニスの英雄としての価値を下げてその
影響力を弱めようとするキャピタルのスノウ大統領。
彼らにとってカットニスは、強力だが扱いづらい将棋の
“駒”に過ぎない。駒の気持ちなど考えないどころか、
思い通りに動かす為にはその気持ちを平気で踏みにじる。
このシリーズは一貫して、メディアに翻弄され
闘争の駒にされる個人を描いてきたという気がする。
完結編ということでアクションシーンはシリーズ最大規模だし
望まれていた筈のキャピタル陥落がなんとも不毛な形で
終結してしまう点なども意外な展開で面白かった。
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だがまあ、ここから不満点。
シリーズを通して感じていたが、独裁国家パネムの設定・世界観が
カッチリ出来上がっていないという感じが僕には最後まで拭えず。
本作の場合だと、
あれだけ強大な軍事力をアピールしてたキャピタルが、
まだ完全に団結もできていない反乱軍を相手にして、
クライマックスでアッサリ転覆寸前になってる。
1~13地区連合軍は数も士気も上だったのかもだが
(コイン大統領もスノウ大統領以上に狡猾だし)、
最前線ではなく攻略済の地区を回るカットニス達が話の
中心という事もあって、戦況とかが全然分からんのよね。
特に手痛いのは、最前線に駆り出されていたカットニスの
妹の登場そしてその死までもが唐突になっていること。
他にも、
攻略済の地区の割にトラップわんさか残っていたり、
これまで名前すら登場しなかった筈の水棲ゾンビ
みたいなのが大量発生して襲いかかってきたり、
次々死んでいく仲間の存在感もイマイチ薄かったり、
カットニスの心情描写については注力されている
のだけど、その周辺の描写は随分粗いと感じた。
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そのぶん、カットニスの物語はきっちりと完結する。
妹を救う為に始めた闘いの筈だったのに、
妹が死んだ事で彼女の闘いは終わった。
多くの人々がスノウ&コインの圧制から救われはしたが、
カットニス本人にとっては救われない皮肉な結末。
だが、嘘まみれの世界で疲弊し切った彼女を癒したのはピータの真心だった。
「嘘か真実か?」というあの質問。
互いの正義ばかりをがなりたてるメディアにカットニスの真実はなかった。
野に咲く花の価値を知る人、降り続ける雨音を共に聴いてくれる人、
傍にいて、自分の大切なものを大切にしてくれる人、
それこそがカットニスにとっての真実だった。
個人を遥かに越えた闘いに巻き込まれ、本当の
自分より大きな存在であることを必要とされ、
声高に鳴き続けることを半ば強制されていた彼女。
その重圧から解放された彼女が、静かに我が子に
微笑みかけるラストは、優しく幸福なラストだ。
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僕が1作目に付けたスコアは3.0判定。
2、3作目とも個人的な評価は横這いなのだが
この最終作で綺麗な着地を決めたと思う。
3.0~3.50判定が正直な所だが、J・ローレンス
お疲れ様でしたという気持ちも込みで、3.5判定。
<2015.11.28鑑賞>