「プロレス自体はショッパかったけど、奥は深かった」ママはレスリング・クイーン 全竜(3代目)さんの映画レビュー(感想・評価)
プロレス自体はショッパかったけど、奥は深かった
過去の過ちにより、最愛の息子と離ればなれになってしまった女が、勤め先のスーパーのレジ打ち仲間達と女子プロレス(熟女プロレス?)団体を立ち上げ、息子を振り向かせようとハッスルする家族喜劇。
男のレスラーものやと、ミッキー・ロークの『レスラー』や、宇梶剛士の『お父さんのバックドロップ』etc. リングでしか居場所が無い孤独感が哀愁を誘い、涙するのだが、今作は常に温もりある世界観に包まれていたのが印象強かった。
それは世捨て人ではなく、主婦として母親として社会の底辺と接しながら闘っているからであろう。
メインイベントでファイト中に、「私の息子が観に来てるから勝たせてよ」
「嫌よ、私も来てんだから」
とやり取りする距離感に、現代の女戦士の事情が象徴されていて面白い。
佐々木健介ファミリーがバラエティー番組に出演した場合、結局オイシイところはカミさんの北斗晶が全部モッテいっちゃうのと殆ど同じであろう。
ただ、とてつもなく違和感を覚えたのは、手本としていた団体が、アメリカのWWEだった点に尽きる。
プロレスの根本がエンターテイメント重視であり、興業ありきの娯楽路線は、八百長とは薄々察しながらも真剣勝負に酔いしれるドラマ性を期待して観戦してきた馬場・猪木イズムを未だ引きずる昭和プロレスオタクには、戸惑いが大きい。
つまり、入場アクションを稽古する暇が有るなら、その時間をスパーリングにもっと費やしなよとツッコんでしまう。
パフォーマンスも大事やけど、プロレスの基本は、受け身であり、ロープワークだろうがとヤジをトバす自分は時代遅れかもしれないが、プロレスの表のカタチばかりにこだわっている彼女達に、感情移入はできなかった。
第一、まだデビュー戦も飾っていない素人オバサンばかりの団体に、あれだけのキャパを押さえ、満員の客を呼べる魅力が何処に有るのか、甚だ疑問である。
泥んこプロレスとか、キャバレーの余興みたいなキャットファイトならば、噺は別だが、木戸銭払って大熱狂するイベントとしていきなり成立するのは、長州力が大失敗したWJの悪夢を知っている者とすれば、遠い夢物語としか受け取れなかった。
舞台のフランスと云えば、“一人民族大移動”の異名で天下を獲った伝説のプロレスラー、アンドレ・ザ・ジャイアントの生まれ故郷ではないか。
故に、プロレスの認知度は其れなりに有るハズである。
映画全体ののしょっぱさは眼を瞑るとしても、フランスのプロレス事情を先ず知らせて欲しかったなぁと、リサーチ不足が残念でならなかった。
では、最後に短歌を一首
『レジ打ちの 咬ますオネンネ ラリアット 母の居場所は 血染めのリング』
by全竜