劇場公開日 2022年4月29日

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「世界一咥え煙草が似合う男と世界一ベリーショートが似合う女」勝手にしやがれ 盟吉津堂さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0世界一咥え煙草が似合う男と世界一ベリーショートが似合う女

2025年4月17日
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鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

興奮

斬新

ドキドキ

ヌーヴェルヴァーグ(新しい波)は1950年代末に始まったフランスの若手監督たちによる映画運動であり、本作はその代表的作品のように言われることも多いのだけれど、自分は当時この世に生まれてもいなかったので(笑)、その時代の空気というものが全然分からない。

当時のフランスは植民地のインドシナを失い、同じく植民地であるアルジェリアでも独立戦争が起こって政治的にはかなり混乱した状態で、若者たちの間で政府に対する不信や不満がかなり広まっていたようである。

本作で刹那的に生きる犯罪者ミシェルはそんな鬱屈した時代を背景に生まれたキャラクターなのだ。

アメリカでも60年代後半から70年代にかけてアメリカン・ニューシネマと呼ばれる、従来のハリウッド娯楽作品とは全く異なる、体制に抗う若者たちが悲劇的な最期を迎えるような作品群が生まれたが、これも泥沼化するベトナム戦争を続ける政府に対するアメリカの若者たちの不信や不満と切り離せないだろう。

日本でも同じ頃に日本ヌーヴェルヴァーグと呼ばれる映画運動が起こったり、ATG(日本アート・シアター・ギルド)という映画会社が非商業的な芸術作品を作ったりしたのだが、これらも学生運動や安保闘争、ベトナム反戦運動なんかと密接につながったムーブメントであったようである。

このように60年代から70年代にかけて世界のあちこちで起こった新しい映画運動というのは、当時の世相や若者たちの鬱屈した思いを背景にしているので、そういう時代の空気をじかに吸ってない人間が後から観てもイマイチピンとこない部分があるのだろうとは思う。

自分がこの作品を初めて観たのは二十歳になるやならずやの頃で、ヌーヴェルヴァーグのことなんか何も知らなかったし、ピンとこないといえばピンとこなかった(笑)。
ただハリウッドの娯楽映画とは違って、観客を突き放すような恐ろしくクールな映画だと強烈に印象に残っている。

特にジーン・セバーグの可憐さとクールさにはビビりまくってしまった(笑)。
(自分の中では)ベリーショートが世界一似合う女性であり、本作のパトリシアはそのクールさにおいても世界でトップクラスの女性キャラクターと言えるだろう。
ジーン・セバーグは劇中でもアメリカ人役だし、本人もフランス人ではなく、スウェーデン人の血を引くアメリカ人なのだが、若い頃の刷り込みというのは恐ろしいもので今でも自分の中でフランス人女性はクールで怖いという固定観念がある(笑)。

最初に本作を観た二十歳前後の頃はほとんどジーン・セバーグしか目に入らなかったのだが(笑)、今改めて感じるのはジャン=ポール・ベルモンドのカッコよさである。
とにかくカッコいい。
ビシッと決めるのではなく、ちょっとだらしない感じなのがカッコいい。
(自分の中では)咥え煙草が世界一似合う男だ。
しかも、ジャン=ポール・ベルモンドは撮影当時まだ26歳なので、けっこう眼がキラキラしててお茶目だったりもする(笑)。

さらに、映画の天才ジャン=リュック・ゴダールによる独特の編集や演出が今見ても十分に刺激的だ。
ジャンプカットと呼ばれる、時間をすっ飛ばしてショットを繋ぎ合わせる編集技法や、登場人物が観客に向かって語りかけてくるメタ演出など、一歩間違えると陳腐になったりダサくなったりしかねない技法がメチャクチャお洒落に使われている。

こういう、一本間違えると陳腐になったりダサくなったりするようなことをカッコよくやられてしまうとやっぱり痺れてしまう。
今観ても痺れてしまうのだから、当時の世界中の若手監督たちが本作を観てメチャクチャ影響を受けたであろうことは想像に難くない。

そして、この作品の根底に流れているのはやっぱり芸術大国フランスに生まれた当時の若手監督たちが持つ「映画は芸術である」という強烈な信念と「新しい芸術を生み出す」という若々しい情熱なのだと思う。

芸術大国フランスの若手監督たちが「映画は芸術である」ということをひたむきに信じ、「新しい芸術を生み出す」ことにその若い情熱を傾けたことが、この作品はもちろん、ヌーヴェルヴァーグの作品群が今でも色褪せることなく輝き続けている一番の理由ではないかと自分は考える。

かつてフランスの印象派が世界の絵画の流れを一変させてしまったように、ヌーヴェルヴァーグも世界の映画の流れを一変させてしまったと言えるのかもしれない。
フランス恐るべし、である。

盟吉津堂
Mr.C.B.2さんのコメント
2025年4月21日

コメント有り難うございます。
「サムライ」のレビューに書いたように、中3の時にメルビルをみて以来映画ファンになった者としてはあのシーンは必見でした。
「いぬ」ベルモンド、「ギャング」リノ・ヴァンチュラ、「サムライ」ドロン、「影の軍隊」リノ・ヴァンチュラ、「仁義」ドロン、イブ・モンタン、「リスボン特急」ドロン、リチャード・クレンナ等メルビル作品の男達は寡黙でカッコ良かったです。是非ご覧下さい。

Mr.C.B.2
kossyさんのコメント
2025年4月18日

盟吉津堂さん、コメントありがとうございます。
素晴らしいレビューにほれぼれしてしまいそうでした。
やはり同時代の人じゃないと斬新さはわからないし、あとからゴダールが先駆者だったんだとわかったりしますよね。
映画に関わる仕事をする人は必見なのかも・・・

kossy
活動写真愛好家さんのコメント
2025年4月18日

やはり今作のゴダール、トリュフォー、シャブロルみたいな人たちが映画を変えてやろうみたいな感じでヌーヴェルヴァーグの波を起こし、それに対抗してルネ・クレマンが「太陽がいっぱい」作るみたいな。そしてアメリカのアメリカン・ニューシネマや日本の松竹ヌーヴェルヴァーグみたいな波が‼️ 一番映画界が盛り上がってた時期ですよね‼️現代でもそういう波が起きて欲しいですね‼️

活動写真愛好家
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