薔薇色のブー子のレビュー・感想・評価
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安定の福田作品
AKB48(HKT48)の指原莉乃が主演、福田雄一監督のアイドル映画である。
先日同じく福田監督作品である『斉木楠雄のΨ難』を観たがあまり面白くなかったので、本作が面白いのを期待して口直しに観ることにした。
やはり福田雄一はそこまで大きくない予算でやりたいようにやる作品でこそ力を発揮するように思える。
また前田敦子や大島優子などが映画に出演しているのは観たことはあっても他のAKBメンバーの活躍をほぼ観たことがなかったので、指原だけをこれほど長時間観る経験も初めてである。
福田は以前から自身の監督作品であるTVドラマの『ミューズの鏡』やバラエティ番組の『指原の乱』という番組で指原といっしょに仕事をしているからなのか、彼女の魅せ方をよく心得ている。
確かに白目を向いたり、変顔をしたりすると気の毒になるくらいかわいくないが、光線の具合によってかわいく見える角度からうまく撮影したり、かわいらしさを引き出す演出をしている。
特に寒くなっている11月にわざわざ半袖シャツなど比較的薄着な格好をさせ、座ると中が見えそうなくらい短いミニスカートを穿かせるなど明らかに狙っている。
本作を観て、はじめて指原が綺麗な足をしていることに気付いた、というより福田によって気付かされた。
ただそれに比べて猫背ぎみなのはもったいない!
指原自身は自分を「女優じゃない」と位置づけ、舞台挨拶で本作を映画としては「遺作」と公言している。
福田も指原の演技を「がっついていない」ところがいいと評価しているし、大分県が同郷で出身中学校まで同じ共演者の父親役のユースケ・サンタマリアも「欲がない」「正直」と評価している。
もっともユースケの場合は「欲がなさすぎる」「正直すぎる」とも言って笑いのネタにもしている。
また本作が制作された2014年の時点で指原が生涯に観た映画は本作を含めて4本しかないらしい。
過去に自分が出演した映画も観ないのだとか。
筆者はおそらく小学校未入学時点で彼女の4本は確実に抜いていたから、恐るべき観なさっぷりで逆に感心する。
筆者は映画をよく観る方だと思うが、映画を観ないことで磨かれる感性というのが世の中には絶対にあると思う。
BABYMETALのボーカルのSU-METALも今年で20歳になるが、漫画の読み方がわからないため全く読んだことがなく、自転車にも乗れないという。
普通に人が当たり前にできることができない、あるいはしないことで生まれる感性にはきっと独特なものがあると思う。
本作と『銀魂』『斉木楠雄のΨ難』を比較すると、やはり配役の差が大きい。
『銀魂』『斉木楠雄のΨ難』は出演俳優が豪華である。3作品全部に共通して出演しているのはムロツヨシと佐藤二朗ぐらいである。
『銀魂』はアクション作品の面も大きいので多少笑いですべっても問題ないが、『斉木楠雄のΨ難』はコメディ作品なのに本作に比べると全然笑えないのはまずい。
福田作品は困った時のムロと佐藤頼みなところがある。そのため彼ら、特に佐藤はアドリブやり放題の放し飼いにされている。(もちろん編集で切ったり駄目出しはある)
そこには信頼関係もある。本作での佐藤のシーンはちょっと不気味にも見えるが、ムロの登場シーンは確実に笑いが取れる。
『銀魂』『斉木楠雄のΨ難』ではそんな彼らの登場シーンもとても短い。本作を観てやはり彼らが活躍してこその福田作品であると改めて感じた。
TVドラマの『スーパーサラリーマン左江内氏』ではわざとらしいほど彼らに活躍の場が与えられている。
最近は福田作品の常連メンバーに定着しつつある賀来賢人が『斉木楠雄のΨ難』でも活躍していたが、まだまだ彼らには及ばない。
なお藤子・F・不二雄の原作を読んでいるので断言できるが、TVドラマは原作からは遥か数万光年かけ離れている。
また社長役の志賀廣太郎、店長役のマギー、米農家役の野添義弘の3人が登場して指原に絡むシーンは最高である。
面白くするアドリブを3人がどんどん追加したようで、特に野添の演技に指原が下を向いて笑いを堪える場面がある。
映画『女子ーズ』にもあった。あの高畑光希ですら堪えきれずに下を向いてしまっているが、堪えているのがバレバレな、まさに笑いテロであり、あえてその瞬発力を優先してこれらの映像を使うのが福田作品なのだと言いたい。
本作の目玉の脇役俳優は田口トモロヲになるのかもしれないが、田口は逆に演技が上手すぎるのとアドリブが利かない真面目な性格なのか福田作品には全然合っていないように思えた。
『斉木楠雄のΨ難』でも新井浩文に同じ匂いを感じる。
それに、セーラー服と機関銃のもう余りにも使い古された鉄板パロディや、ホリのキムタクのまね、NON STYLE井上や博多華丸のいつもの使われた方、最終盤に起きるご都合主義な展開の数々、スパロウが父親であることがわかってしまうことなど、1つ1つを取り上げれば突っ込みどころは満載である。
しかし、作品全体での笑いがそれらをかき消してくれる。
そしてコドモ警察の主役の鈴木福、ナベさん役の鏑木海智、イノさん役の青木勁都が出演しているのもなんだか懐かしく思えるし、きたろう、山西淳、片桐はいり、岡田義徳ら個性派俳優たちの演技も作品を盛り上げてくれる。
確かに指原の演技は下手クソもいいところである。
本作には裕福な女性役としてAKB48の小嶋陽菜も登場して場違いなモデルウォークを披露して笑わせてくれるが、たった数分の演技を見てもやはり同じ下手クソであっても小嶋主演で1本映画を創るのは無理に思えた。
外見だけなら渡辺麻友に絶対に太刀打ち出来ない指原がなぜAKB総選挙で現在3連覇中で通算でも4回勝ったのか、本作やメイキングビデオ、舞台挨拶を通じて、その魅力を垣間見たように思う。
指原がまだ24歳なことにも驚いたが、あらすじを見たところ演劇版シンデレラっぽそうな『ミューズの鏡』や『指原の乱』を観たくなってしまった。
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