「生きて活かす己。」柘榴坂の仇討 ハチコさんの映画レビュー(感想・評価)
生きて活かす己。
主演の中井貴一といえば「サラメシっ♪」と笑顔で喋り、
仇敵役の阿部寛は「エンブレ~ム♪」と叫びながら滑ってくる、
そんなコメディ俳優のイメージが板についてきた二人なので、
真面目な時代劇に大丈夫か?なんていう心配は杞憂だった。
浅田次郎の原作は知らない。短編集の中の一編らしい。
時代背景が奇しくも同日観た「るろうに剣心」と似通っており、
描かれるテーマにも通じるものがあって驚いた。
移り変わる時代の波に翻弄された元武士が矜持を貫くことと、
新たに生きることへの選択を迫られる。生き恥を晒してまで
生きるくらいなら潔く腹を切るのが武士の在り方と評された
時代、切腹も打ち首も許されず、ただひたすら主君の仇敵を
探すことだけに13年の月日を費やしてきた志村金吾。時代は
明治に遷り、仇討ち禁令が発令されたその日、金吾はようやく
最後の仇敵・佐橋十兵衛にたどり着くのだが…。
とにかく中井貴一の演技が素晴らしい。
静かな佇まいの中、表情を次々と変えてみせる。
敬愛する井伊直弼がまた中村吉右衛門、悪人のわけがない。
主君への忠誠が必ずやり遂げんと誓う金吾の意志を守り抜く。
彼の決意がどれほどのものであったか、藤竜也演じる秋元に
侮辱され斬りかかろうとする目は血走り鬼気迫るものがある。
命に代えて守らなければならないものが当時は主君だったが、
果たして今もそうであろうかという奥方の嫌味も的を得ている。
金吾にしても剣心にしても何をするのか腹は決まっているが、
問題はその後のことだ。
秋元と師匠の説教は、おそらく同じだったろうと私は思える。
女達の凛とした強さも良かったのだが(特に秋元の奥方)、
惜しむらくは広末涼子。彼女の演技が悪いわけではないが、
どうも相応しくない。妻というより妹や養女に見えてしまう
ほど若々しく血色がいい。ミサンガや手を繋ぐという所作も
せっかくの風情を打ち消すものになってしまって残念である。
武骨な車引きの阿部ちゃんも新境地。男の背中に泣いたぞ。
(歳がいってなければ^^;中井&小泉のペアで見たかったかも)