「【”望み”被害者及びその家族の人権と、愚かしき加害者の人権の在り方を考えさせられる作品。男である自分を怖がる娘に、汗だくで着ぐるみを着て近づく父の姿には涙が込み上げる作品でもある。】」ソウォン 願い NOBUさんの映画レビュー(感想・評価)
【”望み”被害者及びその家族の人権と、愚かしき加害者の人権の在り方を考えさせられる作品。男である自分を怖がる娘に、汗だくで着ぐるみを着て近づく父の姿には涙が込み上げる作品でもある。】
■雨が激しく降る日の朝、8歳の少女・ソウォン(イ・レ)は酒に酔った男に暴行され、心と身体に多大な傷を受けてしまう。
父のドンフン(ソル・ギュング)、母のミヒ(オム・ジウォン)は、マスコミの目から娘を守ろうと必死になる。
だがソウォンは、深い心の傷を負い、ドンフンに懐かなくなる。彼は娘の日記を読み、彼女が好きなソーセージのキャラクター、”ココモン”の着ぐるみを着て、汗だくになりながら娘の姿を電信柱の陰から見守る。
一方、心神耗弱を言い出した愚劣だが、知恵のある犯人の有罪を立証するため、ソウォン自身の証言が必要となる。
◆感想<Caution!内容に触れています。>
・序盤は観て来て、きつすぎるし、哀しすぎる。そして、私には娘がいるので、自分がソウォンの父だったら、どんな手を使ってでも犯人を殺しに行くだろうなと思う。それは何の解決にもならない事は十分承知の上で。
・今作が優れているのは、その後である。娘が同様に乱暴され16歳で命を絶ち、自身も車で川に飛び込み、足が不自由になった女性心理療法士(名優、キム・ヘスク)が冷静にソウォン、父のドンフン、特に母のミヒへ接する方が素晴らしいのである。そして思うのである。この女性は、地獄をみたからこそ、強い人間になったのだと。
・ご存じのようにドンフンを演じた名優ソル・ギュングは、出演作品を吟味し、場合によっては大幅な体形改造をする方であるが、今作でも少しぽっちゃり形で登場する。
そんな彼が娘とのコミュニケーションを取るために、彼女が好きなソーセージのキャラクター”ココモン”の着ぐるみを着て、汗だくになりながら娘の姿を電信柱の陰から見守る、ちょっと可笑しくも泣ける姿。
そして、ソウォンに漸く近づいた時に彼女が優しい表情で言った言葉。
”お父さんでしょ。”
汗だくで、涙を浮かべてその言葉を聴くドンフン。このシーンは、涙が零れたよ。
■再審請求をした犯人出席の、裁判シーン。カーテンで覆われた席で再び犯人の写真を見た時に頷くソウォン。
この映画が、設定として上手いのは、このシーンの前に犯人とドンフンが面着するシーンを入れた事である。そこで、犯人は無表情に”生意気な奴だな。娘と同じだ。”とほざくのである。観る側は、犯人が泥酔していても理性が在った事が分かるのである。
私は、法を少し学んだものであるが、そして”疑わしきは被告人の利益を。”という刑事訴訟法の鉄則を叩き込まれたモノだが、犯人が狡賢い場合と、被告側弁護人が心神耗弱を申し立てた時の量刑が甘すぎると思っている。今作でもそうである。
近年の量刑は”被害者及びその家族の人権”に可なり配慮する流れになっているが、今作での量刑は甘すぎると思う。事実だから仕方がないが、犯人はソウォンが成人になった時に出所してくるからである。
・だが、今作の救いはソウォンが退院した時に、家のガラス窓一杯に貼られた励ましの絵や、ドンフンを雇う工場長(キム・サンホ)やその妻(ラ・ミラン)の姿や、ソウォンの級友の男の子たちが、彼女を守るが如く、登下校の際に少し離れた後ろを歩く姿である。
この作品のラスト、母のミヒは無事に子を産むがその子の名前は、ソマン(望み)なのである。
<今作は、被害者及びその家族の人権と、愚かしき加害者の人権の在り方を考えさせられる作品であり、且つ、男である自分を怖がる娘に、汗だくで娘の好きなキャラクターの着ぐるみを着て近づく父の姿には涙が込み上げる作品でもある。>