「総じて感じられる監督のスキルの低さ」トランセンデンス litronix_2260さんの映画レビュー(感想・評価)
総じて感じられる監督のスキルの低さ
クリストファー・ノーランの製作総指揮と言うことで期待して観ましたが、結論から言えばつまらなかったです。クリスの製作総指揮は『マン・オブ・スティール』も観ましたが、こちらもつまらなく、今冬公開の監督作品『インターステラー』も大丈夫なのかと心配です。
話が逸れました。この映画についてですが、まず感じるのはとにかく地味であること。ドンパチもあるにはありますが、取って付けたような程度で迫力がありません。特に終盤の軍による攻撃ですが、規模もショボくこれが米軍? と言いたくなるレベルです。アフガニスタンのゲリラでももうちょっとマシな装備なのではないでしょうか。
アクションが薄い分ストーリーやキャラクターが魅力的かと言えばそれもありません。ジョニー・デップはもとより、キリアン・マーフィーやあのモーガン・フリーマンですら空気で、存在感が無く、『ダークナイト』シリーズや『インセプション』などで見せた演技とは程遠く、同じ人なのかと疑りたくなります。
そうなってしまっている主な原因は脚本のマズさです。基本となるストーリーは人の意識がコンピュータと融合するという古典的なサイバー・パンクですが、そこから何か広がるわけではなく「ついにコンピュータが意識を持った、ネット接続で万能だ、コワイ」これだけです。あとはそれをどうやって駆逐するかというお定まりのパターンで、共感を覚えるような登場人物の心理的葛藤はなく、結局デップがやっつけられて終わりです。これじゃあ役者に魅力的な演技をしろという方が酷でしょう。
演出は地味、ストーリーに意外性や面白味が無い、キャラクターが死んでる……。つまり娯楽作品としては失敗です。
では科学的知見で目を見張るものがあるのかと言えばそれもありません。前半のデップの意識をコンピュータに移植する際に秘密裏に行うのですが、その場所が廃屋になった体育館のような所で、こんな所で脳にブスブス電極打って感染症とか大丈夫なのか? こんな大掛かりなコンピュータシステムを動かす電力はどこから? 部分的とはいえ、量子コンピュータを稼働させる機材を奥さんはどこから集めたんだ? と数多の疑問を禁じ得ません。
しかしそれより酷いのが、万能神になってからのデップの奇跡の数々です。枯れた植物を蘇らせたり、壊れた施設を自動的に修復したり、瀕死の重症者をアッというまに治したり、更には治した人の意識を乗っ取って自分のしもべにしたりと万能ぶりを発揮するのですが、それら全てを可能にするのが技術的詳細不明のナノマシンです。
このナノマシン、一体どこから出て来たのか、どういう仕組みなのか一切説明が無く、観客は強制的に「へー、ナノマシンなのかー、じゃあ仕方がないねー (棒」と思う他ないという置いてけぼりっぷり。リアリティはゼロです。
たとえば『ジュラシック・パーク』みたいに恐竜の血液を吸った蚊が琥珀の中に閉じ込められ、その化石からDNAを採取して解析し、恐竜を現代に復元する……妥当性はともあれこういったそれっぽい裏付けがあれば説得力もありますが、そんなものはこの映画には一切ありません。つまりSFとしても失敗しているわけです。
その他にも寂れた田舎町の土建屋がGoogleも真っ青の巨大データセンターを突如建設してしまうとか、ツッコミどころ満載です。
この作品はクリスの『ダークナイト』や『インセプション』の撮影監督だったウォーリー・フィスターの監督デビュー作という事で、映像にはそこはかとなくそんな雰囲気があります。その点のみがこの作品で評価できるところでしょうか。
この映画を語るキモはとにもかくにも酷い脚本なわけですが、そういうダメな脚本を直させ、より良いものに仕上げてゆくのが監督の技量と言えるでしょう。そうした場合、今作の映画監督としての彼のスキルは低く、もうちょっと勉強すべきという他ありません。経験的に映像分野から出てきた映画監督はストーリー構築能力が弱いと感じていますが、今回もモロそのパターンだったようです。米国でも酷評されているとのこと、この内容なら致し方ないと思うばかりです。