「あさましい「肉欲」の映画。苦痛を強いる179分。」アデル、ブルーは熱い色 bashibaさんの映画レビュー(感想・評価)
あさましい「肉欲」の映画。苦痛を強いる179分。
カンヌ国際映画祭で審査委員長を務めたスピルバーグは「偉大な愛の映画」と激賞したとのことですが、このことば、信じてはいけません。なんと云っても、この映画は一人の女子高生があらゆる欲望に翻弄される過程が軸になっているのですから。あくまで「欲望」が先にあり、「愛」などは所詮、後付けなのです。まず、食欲、このアデルという女子高生、パスタをぐちゃぐちゃと如何にも汚らしく食べます。口の中の咀嚼されたパスタが見えたりもします。観ている者に不快感を与えます。次に睡眠欲、口を半開きにして如何にも放恣な寝顔で眠りを貪ります。そして、性欲、男でも女でも来る者は拒みません。特に、美術学校の学生、エマとの女同士の全裸での性交場面はまるでケダモノです。お互いの股間を舐め合い、大きなあえぎ声を出すのですが、観ているうちに胸糞が悪くなりました。この映画では至る所で、色々な人物が文学論や芸術論を開陳するのですが、そのどれもが、誰もが知っている有名なエピソードばかりなのです。特に、サルトルやボブ・マーリーのエピソードはこちらが恥ずかしくなってくるほどの当り前の話なのです。よく知られたエピソードを挿入することによって映画を水増しするのは感心しません。しかし、この映画の致命的な欠点は殆ど編集に注意が払われていないということなのです。バーやクラブ(昔風に云えば、ディスコ)の場面が、延々とだらしなく、続くのです。(長回しとは違います。とにかくしょうもない会話がだらだらと続くのです)性交渉の場面も同様です。舐めたり、揉んだり、尻をひっぱたいたり、もう大変です。そして、終盤、アデルとエマがある喫茶店で再開する場面も冗漫です。あろうことかテーブル越しにキスをしている間にアデルが欲情し、喫茶店で行為に及ぼうとします。あり得ない話です。とにかく、こうした場面を手際よく編集していれば、映画はもっと、締まり、緊張感を持った作品になった筈です。
私は1976年の「タクシー・ドライバー」以来、カンヌ国際映画祭で最高賞を獲得した作品は全て観ていますが、この作品はその中でも最悪の出来の部類に属します。この監督はエイゼンシュテインの「戦艦ポチョムキン」などを観直して、モンタージュのなんたるかを勉強し直した方がいいでしょう。映画というものは長ければいいというものではありません。このケシシュという監督がブレッソンやゴダールのように優れた編集技術を持っていたなら、この作品は2時間以内のしまった作品になっていた筈です。
尚、☆を半分としたのはあくまで、私の主観的な判断に拠るものです。一人の平均的日本人が下した判断に過ぎません。特異な感性をお持ちの方は私とは全く違う感想を持つ筈です。この映画に最初から強い関心をお持ちの方、または同性愛に理解のある方は一度、観ておいた方がいいでしょう。
新宿バルト9で午前11時の回を鑑賞。客の入りは8割強、殆どが一人の来場でした。男性よりも女性の方が目立ちました。カップルで行くのは避けた方が賢明かと思います。