「美味みに感謝。」銀の匙 Silver Spoon ハチコさんの映画レビュー(感想・評価)
美味みに感謝。
原作もアニメも見ていないんだけど、とにかく監督が吉田恵輔。
それだけで期待して観に行ったような作品だった。
オリジナル脚本に拘っていた監督が、今回選んだのは原作モノ。
おそらく脚本でかなり変えている?部分もあるんだろうが、
やはり説得力のある描き方は変わらず、観応えがあった。
親の強いたレールに失敗して自分で選んだ進路が、彼の将来の
夢を象る一歩になるかどうか…というのがテーマだが、
青春モノという枠を出ずして、酪農の経済実態も描かれており、
動物の命を貰う作品を生半可な意気込みでは作れないと感じた。
もちろん私も酪農には無知で経験すらないのだが、
母が畜産農家出身であり、帰省する実家で乳牛を育てていた。
伯母の家に行くと豚もいたが、私は子供時分行くのを嫌がった。
正直、かなり臭い!のだ。どの家に行っても家畜のウンコ臭。
だから初めて八軒があの高校の家畜小屋に入った時、
臭いのことをまったく口にしないのが不思議だった。
その後、動物が大好きになった私もあの臭いは未だに忘れない。
八軒が「豚丼」と名付けた豚が出荷される時、是非自分で!と思った
彼がその肉を買い取るところは非常に印象的。彼はその豚肉を
ベーコンにして先生生徒に配る。自分達で育てた豚を自分達で頂く。
経済動物の昇華(消化)と命の有難み。美味い♪美味しい♪と声が
上がる度に、八軒は自分の学んでいることへの実感を深めていく。
同級生のアキや駒場もそれぞれが持つキャラの個性がよかった。
アキ役の広瀬アリスは主人公の中島健人同様にキラキラ感が強く、
それを消し去るのに監督は苦労したようだが、彼女の場合は動物
が大好き!ということで家畜と違和感なく戯れているのが印象的。
馬術部ということで馬との触れ合いが多いのだが頑張ったと思う。
駒場役の市川知宏はまずカッコいい(爆)クール。といった感じで
八軒とはいいライバルになるのだが、彼は家の事情で退学をする。
主人を失った酪農一家が借金を抱えながらどこまで踏ん張れるか、
可愛いとか可哀想とかそんなレベルでは語れない苦悩も描かれる。
タイトルの銀の匙の意味を知った時には少し驚いて感動した。
農家の子に生まれたからといっても、食うに困らない時代ではない。
「食うに困らない」子に育てるため、親は教育に力を注いでいるけど
生産物の根本を分かっていない子供を育てても食育にはならない。
お肉はスライスされ、魚は開かれ、野菜は泥を落としてから売られ、
それを当たり前のように購入して調理して食べる人間達がいる。
劇中では豚の屠殺シーンを見せるが、これをするから肉が得られる
ことをしっかり把握しておかなければペットと家畜を混同する人間に
なってしまうと思う。食べるには残酷なことなどたくさん冒している。
八軒に「夢のないことはいいことだ。」という校長の台詞は
その子への励ましだと私は受け取った。まずは自分でやりたいと
思うことを探さなけりゃ、夢なんか見つかるワケがない。
こんな世の中だからと嘆かず、自分の人生一度きりなんだからと思い、
とりあえず色んなものに挑んで染まってみたら面白いと思う。
何にでもなれる。のは潰しが利く若いうち!(爆)これだけは本当だ。
(ちなみに息子のオムツの中はもっと臭かったのです。あははは^^;)