「振り払っても振り払っても追いかけてくる現実」そこのみにて光輝く Chisaさんの映画レビュー(感想・評価)
振り払っても振り払っても追いかけてくる現実
芥川賞候補に幾度も名を連ねながら受賞がかなわず、41歳で自ら命を絶った不遇の作家・佐藤泰志の唯一の長編小説を、綾野剛の主演で映画化。「オカンの嫁入り」の呉美保監督がメガホンをとり、愛を捨てた男と愛を諦めた女の出会いを描く。
仕事を辞めブラブラと過ごしていた佐藤達夫は、粗暴だが人懐こい青年・大城拓児とパチンコ屋で知り合う。ついて来るよう案内された先には、取り残されたように存在する一軒のバラックで、寝たきりの父、その世話に追われる母、水商売で一家を支える千夏がいた。世間からさげすまれたその場所で、ひとり光輝く千夏に達夫はひかれていく。しかしそんな時、事件が起こり……。
(映画.comより引用)
すーーーーーーーーーーごいよかった!ストーリーは辛いけど、映像が綺麗でノスタルジック。綾野剛も池脇千鶴も菅田将暉もあんまり興味なかったけど観てよかった。
三人とも全然違うキャラクターでそれぞれ超ナイスキャスティング。特に菅田将暉がいい演技。今auのCMで鬼ちゃんやってるけど、あれに似たハイテンション。でも拓児は心の奥底に深い深い闇がある。それを隠すかのように必要以上に明るく振る舞う。ラスト、綾野剛のアパートで泣き崩れるシーン、シビア過ぎる現状をどうすることもできない二人の姿が印象に残ってじんわり泣けた。山に行く、っていうただそれだけのことに賭けていた拓児の想いがあまりに大きくて辛かった。
綾野剛も、ぴったり。最近観た「すべてがFになる」と「コウノドリ」は両方とも合ってなくて微妙だった。原作が好きだったから厳し目になってるというのもあるけど。頭いい役とか心優しい芸術肌の役は無理してる感じがしちゃう。こういう役をやってる綾野剛が好きだなぁ~。あ、「新宿スワン」のアホっぽい役もよかったな。
池脇千鶴は「スイートリトルライズ」「ジョゼと虎と魚たち」に引き続き不幸な女性役・・・だけど今回は不幸のレベルが別格。親がクソですね。ただひたすら親がクソですね。さすがにここまでクソみたいな親、おらんて!・・って思えるのは自分がまともな世界で育ってきた証。感謝しなきゃ、って思うところなんだろうけど、悲惨すぎて、観てても全く現実味が持てないくらいだった。実際こういう家庭で育ってない人にとっては演じるのがスーパー難しい役のはずなのに、ラストの表情は天才的だったなぁ。池脇千鶴は役に入り込みすぎて精神的に崩壊しないものかしらなんて余計な心配してしまう。
久しぶりに余韻が残る作品で、観終わってしばらくボーッとしてしまった。いろいろ考えたけど、現状を変えることの難しさを一番に感じた。最初の変化を起こすのは本当に些細で小さな一歩だけど、日常に埋没しているとその一歩を踏み出せる可能性があるということにすら気付けない。このままの状態が延々と続いていくという可能性しか見えない。実際そうなのかもしれないし。そしてもし、現状打破に繋がるかもしれない最初の一歩の存在に気付いても、それが正しいことなのか、踏み出すことで今より幸せになれるのかは誰にもわからないし、なかなか勇気は出ない。そうこうしているうちにどんどん時間が経って歳を取って、変化そのものを恐れるようになってしまう。
辛うじて救いのあるラストでホッとした。最後間に合って良かった、勘違いしたまま引き返さなくて良かった。綾野剛、池脇千鶴の過去も今も受け入れようとする強さが偉大だな。「ジョゼと〜」とは正反対のエンディング。やっぱ妻夫木より綾野剛だわ(違
原作も読んでみようかな、と思ったけど、原作者自殺してるみたいだし、これ以上取り留めもなくどんどん考え続けるとドツボにはまってまた病みそうだから読まないどく。次はなんか軽くてポップなやつ観よ。