「本作だけ観てもつまらない。デューン/砂の惑星→ホドロフスキーのDUNE→リアリティのダンスと観てください!」リアリティのダンス さぽしゃさんの映画レビュー(感想・評価)
本作だけ観てもつまらない。デューン/砂の惑星→ホドロフスキーのDUNE→リアリティのダンスと観てください!
「狂気がなければ芸術作品は生み出せない」
byアレハンドロ・ホドロフスキー
『デューン/砂の惑星(1984年)』
『ホドロフスキーのDUNE(2013年)』
『リアリティのダンス(2013年)』
1980年 エレファントマン
1984年 デューン/砂の惑星
1986年 ブルーベルベット
これはデビッド・リンチ監督の1980年度の監督作品です。
この後1990年に、私の大好きな"ワイルド・アット・ハート"を撮りますが……。
さて、みなさん。一作、一作、内容を思い出すと、かなり酸っぱい顔になる作品がありますよね?
そう!「デューン/砂の惑星」です。
※実は昨夜30年振りに観ましたが、諸々と酸っぱかったです。
いやいや、大好きですよ!
顔にできたおできを、執拗に気持ち悪く映し出す困ったコダワリとか。
仄暗い、こんがらがったサーガとか。
ナウシカをはじめ、色んな作品に影響を与えた(何故か側面の部分的なアップばかりの)サンドワームとか。
厨二の大好物である"力が覚醒する"とことか。
人気者のシンガーだと?スティングだと?知ったことか!と、これでもか!と格好悪く死なすとことか。
まだまだ可愛いショーン・ヤングとか。
大好きですよ!
でも、ブッツ、ブッツに話が切れて、なかなか世界に迎え入れてくれない部分もあり。
きっと、もっと長い作品だったんでしょうね。
だってある監督は「絶対に12時間で撮る!」と言ってきかなかったんですから。
それだけの時間をかけてこそ、描ける世界観なのでしょうね。
1975年「デューン/砂の惑星」を、12時間で撮ると言ってきかなかった監督がいます。
スタッフ&キャストと言わず「魂の戦士」と呼んで探し求め、変態的な交渉術で天才達を口説き落とし、完璧な企画ができあがっていたのに。
ある理由でダメになったんです。
その過程を、ドキュメンタリーにしたのが"ホドロフスキーのDUNE"です。
ホドロフスキーと言ったら、"エル・トポ"でパンツ一丁で泥まみれで蠢いていたイメージが強いです(笑)すみません、他の作品は未見です。
ハリウッドのメジャーな映画会社に売り込みにいった際に、実は"企画は最高!だけど監督を変えろ"と言われた理由は、この"エル・トポ"のせいでした。
「あんな変人に、むっちゃお金のかかる12時間の映画を撮らせられっか」だったんです。
最近"オンリー・ゴット"をレフン監督から捧げられていた、鬼才、変態、アレハンドロ・ホドロフスキー監督。
ホドロフスキー監督が撮ろうと思った「デューン/砂の惑星」が、どれだけ凄いか「魂の戦士」一覧を見るだけでお分かりになるかと思います。
◎スタッフは下記の通り。
ミシェル・セドゥー
メビウス
クリス・フォス
H・R・ギーガー
ダン・オバノン
ピンク・フロイド
◎キャストは下記の通り。
デヴィッド・キャラダイン
ミック・ジャガー
オーソン・ウエルズ
サルバドール・ダリ(と、ダリのミューズ:アマンダ・リア)
ブロンティス・ホドロフスキー
このメンツで、12時間の映画を撮るって凄くないですか?
ホドロフスキー監督が、目をキラキラさせて当時の様子を語ります。なんだ、こんなに可愛い人なんだー。と思っていたら、むっちゃ笑顔で「私は原作をレイプしてやったんだよ!レイプしてやった!」と繰り返していて、びっくりしました(笑)
いや、80歳過ぎてこのテンション!素晴らしい(でも、息子さんで俳優のブロンディス、疲れそう……)。
当初は、特撮に「2001年宇宙の旅」のダグラス・トランブルを予定していました。
でも打ち合わせ段階で、ホドロフスキー監督そっちのけで電話に40回も出るその不遜な態度で「あいつは魂の戦士ではない」と断るとことに。
爽快!
ホドロフスキー監督は"映画は自分にとって芸術なんだ"と繰り返し言いますが、それがよく分かるエピソードです。
さて、ここまでできあがっていた企画が、監督へのダメ出しでなくなってしまいます。
が、満を持してリンチ監督が映画化するんです。※ホドロフスキーの企画は映画化してません。
ホドロフスキー監督は泣いたそうですよ。でも、勇気を振り絞って映画を観にいったそうです。
「リンチだぞ、あの天才リンチが撮った映画。とても敵うわけない!けど……」
この後、ホドロフスキー監督は満面の笑みで続けます。
「けど、大失敗やん!酷いやん!」
リンチ監督の「デューン/砂の惑星」を観て、すっごくハッピーになった!って。
あ、決してリンチ批判をしているわけではないんです。
ホドロフスキー監督は確信したんですよ、自分の企画が間違ってなかったって。自信を取り戻した満面の笑みだったんです。可愛い人。
ホドロフスキーのDUNEは幻の作品となってしまいましたが、その企画の片鱗はSWにも、フラッシュゴードンにも、エイリアン(ホドロフスキーのお陰で出会った2人が作ったんだもの)にも、最近ならプロメテウス等にも見つけられます。
未完なのに、多くのSF作品に影響を与えるとは。凄いです。
ギーガーや、レフン監督の貴重なインタビューや、クリス・フォスの宇宙船のイラスト(凄く良いんですよこれ!)が見られるだけでも素晴らしいです。また、もし本当に映画化されていたら、SWはどうなっていたんだろう?と思いを馳せるのも楽しい。
「狂気がなければ芸術作品は生み出せない」と"ホドロフスキーのDUNE"で繰り返し言っていた監督と、プロデューサーのミシェル・セドゥーがそれから35年後に再びタッグを組んで制作したのが、"リアリティのダンス"です。
本作は、ホドロフスキー監督半生の映画化です。勿論、ご本人も出演されてますよ。
あ、半生というか、子供の時に体験したエピソードの数々と言った方が良いかもしれません。寺山修司の「田園に死す」に確かに似ています(あ、VHS持ってます)ね。
色々と、妙なんです(笑)
父親(ブロンティス・ホドロフスキー)は厳格というか、息子のアレハンドロを強く育てたいと思うあまり、麻酔ナシで歯科治療をさせたりします。
巨乳の母親は(オペラ歌手志望だったみたいで) 普段の喋る口調が、全てオペラです。暗闇を怖がるアレハンドロを靴墨で真っ黒に塗って克服させたり、夫の伝染病を放尿で治したりします。なんでしょう、何かを超越した女性です。
そんな幼少期のアレハンドロを、優しい目で見つめて励ますホドロフスキー監督。
妙なエピソードから垣間見られる、チリ政権下の抑圧された恐怖と奇々怪々な貧困生活。
ホドロフスキー監督は、現在86歳です。
本作を観ていて、創作の源になっていた狂気と、漸く折り合いをつけたのかも知れないと思いました。凄く、解りやすい作品です。
独裁的な父と、その父に抗えない母と、あの時代を赦す。
ホドロフスキー監督の悟りと、優しさを感じる作品です。
そして同時に、ホドロフスキー監督とのサヨナラが近付いていることを、強く感じる作品でした。
いつまでもお元気で!そう願わずにはいられません。
原題が「LA DANZA DE LA REALIDAD(英:THE DANCE OF REALITY)」です。
真実のダンス。現実を思いっきり踊らせる。現実を好き勝手にダンスさせて、滅茶苦茶にして、そうすれば何かが再生されるのかも知れない。
私もリアリティのダンスをしようか。
できれば3作品、纏めてどうぞ!