「「キューブリックの初長編」という肩書がなければ…」恐怖と欲望 すっかんさんの映画レビュー(感想・評価)
「キューブリックの初長編」という肩書がなければ…
◯作品全体
キューブリック作品長編一作目。キューブリックが表に出したくない理由が画面からわかって面白い。動きが繋がらないカットがあったり登場人物のリアクションのためだけにカットを割っていたり、ぎこちなさが節々にあった。敵地で孤立した兵士の極限状態を描いているけれど少しハイキ―気味で明るいのもイマイチだし、冒頭で抽象的なことをめちゃくちゃ語るのも、なんだか若さを感じてしまう。
後半の将軍殺害のくだりも面白くはあったけど、筏の上の語りが長すぎてあんまり緊張感がない。自分の存在価値を考えて将軍の命と天秤にかけて勇気を奮い立たせようとしているのがわかって良いシーンではあるんだけど、ちょっと間延びしてた。
駄作とは言わないけれど、正直「キューブリックの初長編」という肩書がなければ接点がなかった作品だ。
無理やりキューブリックらしさを挙げるとすると、「目」や「目線」の演出。驚きや気づきを表現する際に目や目の動きへのクローズアップを多く使っていた。クローズアップ以外にも、茂みから犬が出てきたときには兵士たち4人を正面からフルショットで映し、じっとカメラを見るような演出もあった。他の作品でもよく見る構図だけど、カメラに目線をむけることがほとんどない本作では少し浮いて見えた。
「目」でいえば『シャイニング』、『時計仕掛けのオレンジ』、『フルメタルジャケット』なんかは印象的なクローズアップがあるし、「目線」でいえば古い作品だと『突撃』の処刑シーンで連行される兵士を見つめるダックス大佐のカットが思い浮かぶ。キューブリックという文脈でなくとも、短い登場人物の舞台設定としてプロップを使うことが難しい状況だから身体の一部を強調することで画面のメリハリを作っていたのかもしれない。
◯カメラワークとか
・イマジナリーラインを無視したカットが結構あるんだけど、それが演出ではなくてチグハグでしかないのもぎこちなさを感じる一因かも。
◯その他
・戦闘が終わったあとに筏が発狂した人のところを通って、一緒に筏に乗って帰るところはなんだか良かったな。もう戻らないと思ったら人物と偶然再開して、また一緒の道を行くっていうプロットに弱い。