「高級な素材、杜撰な調理」恐怖と欲望 因果さんの映画レビュー(感想・評価)
高級な素材、杜撰な調理
処女長編ということもあってか、既存作品の技法の表層をツギハギしたような印象が強かった。川辺で捕虜にした女と若い兵士がやりとりするシーンはカール・テオドア・ドライヤー『裁かるゝジャンヌ』の歌舞伎的なアップショットを彷彿とさせるし、コントラストの強い陰影表現はノワール映画っぽい。断片的なモノローグが次から次へと押し寄せる心理表現はおそらくオーソン・ウェルズ由来のものだろうか。
既存文法の引用はもちろん映画というカルチャーを有機的に持続させるためにも意義ある手段ではあるんだけど、方々からかき集めてきた技術や物語をただ淡々と羅列するだけでは一つの作品として成立しないように思う。
極限状態から脱しようと奮闘する兵士たちが実はより一層鮮烈な恐怖を欲望していた、という因業だが真実味のある物語は、引き立て方によってはいかようにも面白く見せられたと思う。本作がいまいちパッとしないのは、物語を引き立てるための技法に強度が足りなかったからだ。
奮発していい肉を買ったのに調理法を間違えたせいで焼け焦げた炭の塊ができてしまった、といったところか。
キューブリックが本作を長らく封印していたのも頷ける。けど正直言ってこの映画より酷い映画なんか世の中にごまんと存在するわけだし、そもそも「キューブリック作品」という色眼鏡を外して見れば普通に良作の部類だ。キューブリックの完璧主義が画面の外でも遺憾なく発揮されていたことがよくわかる好例だろう。
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