「運命っていうのは、偶然ではないと思うんです。運命って、誰かが先に作ってるもの。 私達はただそれに、出会うだけ。」さよなら、アドルフ さぽしゃさんの映画レビュー(感想・評価)
運命っていうのは、偶然ではないと思うんです。運命って、誰かが先に作ってるもの。 私達はただそれに、出会うだけ。
運命っていうのは、偶然ではないと思うんです。
ウィルソンは、運命は自分で作り出すものだと言ったけど。
マーフィーは、不幸な運命は自分がそう仕向けたからだと言ったけど。
両方とも、違うと思う。
運命って、誰かが先に作ってるものです。
私達はただそれに、出会うだけ。
父親がナチス親衛隊の高官だった子供達の、その後のお話です。
父親を終戦後に連行された14歳のローレ(ザスキア・ローゼンダール)は、幼い弟と妹を連れて、900キロ離れた祖母宅へ向かいます。連合軍の目をかいくぐりながら、山を越える過酷な旅。
父親が具体的に何をしていたのか、詳しくは語られません。ですが、少女達の過酷な旅が、痛みや苦しみが、つまり父親がしてしまったことなんだと思い知らされます。
途中ローレは、親達が行っていた事実を知り激しく困惑します。植え付けられた価値観を、疑う瞬間です。怖いのは新たな何かを信じることではなく、信じた何かを疑うことなんだと分かる。たった14歳のローレの、困惑と苦悩の表情が素晴らしいです。
途中、連合軍に見つかりそうになった時、ユダヤ人青年に助けられます。でもローレは、恩人である彼と、口をきこうとしない。彼がユダヤ人だから。そう教えられて、育ったから。
しかし青年と一緒に旅を続けるうちに、ローレの心にも変化が。淡い恋心も。
ラスト。ローレは、家族の思い出の品を足で粉々に砕きます。今まですり込まれた、偏見との決別です。ですが、粉々になった思い出の中に、幸せだった時も含まれている。
ローレの悲痛な表情が、やりきれない。
今までユダヤ人側から描かれた作品を多く観て来ましたが、ナチス側からは初めてです。
直接的な説明や台詞はなく、抽象的な画が続きます。
けれど、ナチスの子供達を、同情的に、ドラマティクに描くのはおそらく違う。寧ろ感情を抑えた淡々とした映画だからこそ、私達は冷静にローレ達の未来に目を向けることができると思う。
それなのに、この直球邦題。残念過ぎる。