「ハーロックという生き様」キャプテンハーロック tochiroさんの映画レビュー(感想・評価)
ハーロックという生き様
私は作画面で手抜きを繰り返した挙句中途半端で終わった漫画版も、本来自由であるべきハーロックに足枷をはめて、地球に縛り付ける幼女キャラを出したTVアニメ版も好きではないが、ハーロックというキャラクターは好きだった。その「己の信じる旗の下、どんな困難な状況にあっても不敵な笑みを浮かべながら、明日のために今日を生き抜く」生き様が好きだった。
しかしこの作品のハーロックの生き様はそれとは違う。地球の支配体制から追われているのは同じでも、この作品でハーロックが為そうとしているのは、100年前のカムホーム戦争において自らの判断ミスで地球を死の星に変えてしまった罪悪感(絶望感)から、次元振動装置を全宇宙の100か所にある時間の結節点に設置し、一斉に作動させることで時間の流れを解放し今の宇宙を消滅させる。その後に再び始まるビッグバンから生まれる次の宇宙に期待をかけるというもの。まるで死後の輪廻転生に望みをかけて無理心中を図るがごとしで、これが「明日のために今日を生き抜く」ことであるはずがない。
全宇宙には人類と絶滅間近のミーメの種族意外に知的生命体はいないといっても、少なくともトカーガ星には2種類の生物が生息しているのに、ハーロックの行動はたかが人類の中での問題解決のために、そんな異星生命体をも巻き添えに全宇宙を一旦消去しようとするもので、身勝手極まりない。
そういう面ではあくまで現在の状況の中で明日への希望を見出そうとするヤマの方が、本来のハーロックに近いと思える。もしかしてこれは「ハーロック前史」とも言えるもので、ヤマが襲名した2代目こそが私の知るハーロックになるのだろうか。
ただ私はヤマが顔面に傷を負った時点で代替わりがあるかもとは思ったが、当然初代は死ぬか重傷で冷凍睡眠にでもなるだろうと思っていたので、初代が健在のまま「二人ハーロック体制」になるとは意外だった。
初代ハーロックは冷静と言うより陰鬱な感じで、小栗旬もそれに合わせたせいか、声を作り過ぎて合っていない。ここは懐古趣味からではなく、井上真樹夫氏に演じて欲しかった。その代りと言っては何だが、鳥さんの声はスマッシュヒットで大変よかった。
映像面ではかなりのレベルで、人物がアップになった時の質感(皮膚感)には改善の余地があると思うが、それ以外に関しては予想以上に素晴らしくまたパワフルだった。
SF的には変な兵器が出てくる(気軽に運んできた中性子星を縮退圧力以上に圧縮して、ブラックホール生成に伴うγ線バーストではなく、臨界光波を発生させるとか)が、少なくとも映画を観ている間はそのパワフルさに圧倒されてあまり気にならない。
全体としての構成は歪んでいるが、ストーリーよりその画面のパワフルさを楽しむべき作品である。