「↓でも前情報がないと、謎解きが難しい作品。」サイド・エフェクト 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)
↓でも前情報がないと、謎解きが難しい作品。
ソダーバーグ監督作品の印象としては、後味の苦い社会派で、観客を突き放し、オチを親切に説明しない、ちょっと構えて見てしまうものというイメージがありました。
ところが本作は、薬害の副作用(Side・effect)を告発する社会派に見せかけて、実は「ポストモダン・ヒッチコック・スリラー」ともいうべき、本格派のサスペンスを作り上げたのです。しかも、監督としては珍しいハッピーエンドで終わるのです。
今回で監督を引退するソダーバーグとしては、今までにないチャレンジがしたかったのではないでしょうか。
全体の印象としては、鬱病患者のエミリーが、新薬抗鬱剤の副作用で、無意識に夫を刺し殺してしまうという序盤のヤマ場までの展開が、やや長すぎたと思います。加えて、『ボーン・アルティメイタム』の脚本を担当したスコット・Z・バーンズの脚本は、いかに観客を欺くかということが徹底されて、ラスト近くまで観客がミスリードするような書き方なのです。だから真相がネタバレされたときの驚きは感じたものの、あまりにラスト近くまで引き付けすぎたため、いささか謎解きのスピードが急すぎるのです。もう一回見ないと、エミリーの心境の変化がイマイチよく分かりませんでした。
当初長々と、エミリーの病状と治療風景が描かれるシーンでは、すっかり副作用を隠そうとする製薬会社の陰謀を暴いていくのかと誤解してしまいました。ところが、追及の矛先が、新薬を処方した主治医の精神科医バンクスに向けられるに従い、本当の主役はバンクスだったのかと戸惑ったのです。もっと手短に、マスコミがバンクスの処方ミスを追及し始めるシーンに繋いで欲しかったです。
バンクスの登場は、脇役もいいところで、エミリーを患者に持つカウンセラーに過ぎませんでした。問題の薬を勧めるところでも、あれこれ試して効果がなかったエミリーが藁にもすがる思いで飛びついたのに過ぎず、自分が矢面に立たされ、主役になっていくなんて、聖天の霹靂だったでしょう。
ただバンクスの描き方として、医療ミスの冤罪のレッテルを引きはがそうとする正義のヒーローとしての強さだけでなく、自らも過去に患者との性的な接触を疑われた過去を持つ設定はいいと思います。それがあるから、ひょっとしたらバンクスは、昔と同じくエミリーにも興味を持って、邪魔な夫の殺害を意図したのではないかと思わしめる微妙なニュアンスが生まれました。
物語は、やがて法廷で精神薬の副作用で夫を殺したエミリーの有罪性を問いかけながら、バンクスは社会的にも家庭的にも追い込まれていく姿が描かれます。
仕事も家族も失ったバンクスは、倍返しだとばかりに、事件そのものを洗い直す調査に乗り出します。
そして僅かな手がかりから、エミリーは本当に副作用で夫を殺したのか。そして、彼女は果たしてそもそも鬱病だったのか疑い始めるのです。
その疑いの対象は、エミリーの前の主治医であるシーバート博士にも向けられました。果たして、医療事故だったのか、殺人なのか全く混沌とした中で、ラストに突入するのでした。
ルーニー・マーラーが演じるエミリーは、華奢で虫一匹殺せない感じ。だから、薬の副作用で夫を無意識に殺してしまったのという言い分は、凄く説得力があります。彼女に夫を意図的に殺す動機もありません。彼女を疑うのは、追い詰められたバンクスの妄想にしか見えないのです。それでも、恐ろしい一面持ち合わせているとしたらルーニーの演技力はたいしたもんだと驚きたくなりますね。
作品中夫のマーチンとのベッドシーンをオールヌードでこなす体当たりの演技も披露しています。
また、目立たない役柄のシーバート博士も、バンクスの追及で、化けの皮が剥がれたように豹変します。その追及シーンも見どころで、ジュード・ロウのゼタ・ジョーンズの演技合戦が見物でした。
いやはや、女は化けるものだと、女の怖さを思い知らされた作品でした。巻き込まれてしまったバンクスに思わず同情。
とにかく、あっといわせる結末は一切ネタバレできません。ぜひ劇場で。