「影法師が見た滅び」影武者 しゅうへいさんの映画レビュー(感想・評価)
影法師が見た滅び
クリックして本文を読む
DVDで2回目の鑑賞。
黒澤作品で頻繁に登場する「名無しの権兵衛」だが、本作では信玄の死を秘匿するために影武者をつとめることになった盗人(影法師)がこれに当たる。影であるはずの彼が次第に本体のような威厳をまとい、巨大な幻となっていく様が面白い。
役目が終わった途端、石を投げられ館から追い出されてしまう影法師。土砂降りなのに傘もくれない。なんと世知辛い。
偉大な父を持った勝頼の苦悩が物悲しかった。正常な判断力を失い、愚かな家臣のアドバイスで独断専行。長篠の戦いでは死の突撃を命じ主だった家臣を失い茫然自失となる。
常に偉大な父の威光がつきまとっていた勝頼。己の実力を示そうと動いた結果、武田家の滅びへのトリガーを引いてしまったのである。なんとも皮肉で、なんともやるせない。
信玄に惹かれ、武田家を守ろうとした影法師が武田家滅亡の瞬間に立ち会った時の悲壮感たるや、凄まじいものだった。
銃弾の雨の中に突撃し、目の前でバタバタと兵が死ぬ。顔面蒼白の特殊メイク。仲代達矢の壮絶な演技に目を奪われた。
川に沈んだ風林火山の旗と、その横を流れされていく影法師の骸。滅びの美学としか言いようの無い構図に心が震えた。
コメントする