「持ち直して、遺産も残したと思える一作でした。」キャプテン・アメリカ ウィンター・ソルジャー kobayandayoさんの映画レビュー(感想・評価)
持ち直して、遺産も残したと思える一作でした。
2014年4月下旬にTOHOシネマズ六本木ヒルズのスクリーン5にて3D版を鑑賞。
“マーヴェル・シネマティック・ユニヴァース(MCU)”の“フェーズ2”に該当する作品も本作『キャプテン・アメリカ ウィンター・ソルジャー』の登場により、早くも三作目を迎え、MCUのノリに乗っている事がよく分かる勢いに驚かされ、この『ウィンター・ソルジャー』は監督が前作(『ザ・ファースト・アヴェンジャー』)のジョー・ジョンストンから『ウェルカム・トゥ・コリンウッド』のアンソニー&ジョー・ルッソ兄弟に交代し、内容もファンタジー系戦争アクションから、現代風なアクション映画へと路線変更した力作となっています。
70年の冬眠から覚め、“アヴェンジャーズ”としてニューヨークの戦いを“キャップ”ことスティーヴ(クリス・エヴァンス)が経験してから二年が経過し、シールドのエージェントとしてナターシャ(スカーレット・ジョハンソン)と共に様々な問題解決に挑みながら、社会生活に慣れようとしていた。そんな、ある日、長官のニック(サミュエル・L・ジャクソン)が正体不明の暗殺者に命を狙われる事件が起き、それをキッカケにスティーヴもシールドに襲撃されてしまう(粗筋、ここまで)。
“フェーズ2”の作品は『アイアンマン3』、『マイティ・ソー ダーク・ワールド』が共につまらなく、“フェーズ1”のなかでは前作『ザ・ファースト・アヴェンジャー』が最も面白かっただけに、期待して劇場へ足を運びたかったのですが、今回は何も期待しておらず、「もし、本作もつまらなかったら、もう劇場ではMCUを観ない」と覚悟して観てきました。しかし、幸いな事に本作は話が非常に面白く、『アヴェンジャーズ』以降、スケールが大きくなるにつれて、微妙になっていったMCUを持ち直させ、『アイアンマン3』や『ダーク・ワールド』のつまらなさが嘘のように楽しめました。
“キャプテン・アメリカ”というキャラは、現代で活躍しても、コスチュームは常にダサく、このMCUの世界では作品毎に一度はパワードスーツが新しい物に変わる“アイアンマン”とは違う点と言えますが、そこが、MCUとしては回を重ねる度に消え失せていくアメコミ原作物特有のB級感を維持しているように思います。そして、前作(『ザ・ファースト・アヴェンジャー』)はMCUで最も溢れていた、この手の作品らしい悲しみ(目覚めたら、彼の知っている世界ではなくなり、お世話になった上官や戦友はこの世を去り、恋人も年老いている)があるもので、それが本作でも受け継がれ、恋人だったペギー・カーター(ヘイリー・アトウェル)は生きていても、認知症を患って、介護施設で生活していたり、謎の襲撃者のウィンター・ソルジャーの正体が前作中盤で死んだ筈のバッキー(セバスチャン・スタン)であり、記憶を消され、腕を機械化し、前作にも登場したハイドラ党の残党に利用されていて、キャップもバッキーも互いに見た目の老化をせずに現代まで生き続け、敵対し合いながら戦わなければならないという宿命を背負うのは、悲しい話(この件を見て、私の脳裏に過ったのはカナダで製作されたミニ・シリーズのドラマ『ロボコップ プライム・ディレクティヴ』でした。この話と本作には、その点で通じていると言えるでしょう)であり、グッと来るものがあります。
MCUのシリーズは音楽家が変わったり、続投していても、テーマ曲が使われないという事があり、本作では『ザ・ファースト・アヴェンジャー』と『アヴェンジャーズ』のアラン・シルヴェストリからヘンリー・ジャックマンに変わっているのですが、冒頭でいきなり、シルヴェストリによるキャップのテーマのフレーズが流れ、このシリーズ初となるテーマ曲の継続が行われ、音楽の面でも続編を観ているという気分にさせてくれて、他の作品で、「何で、こういう事を行わなかったのか」と疑問を持ったほど、この使い方は素晴らしかったです。
『アイアンマン3』と『ダーク・ワールド』ではシールドが全く登場しない話になっていましたが、どうやら、それらの話の裏で、本作が同時進行していたのかもしれないと思いながら、その疑問の答えが見えたような気がします。フェーズ1においても、『アイアンマン2』から『ザ・ファースト・アヴェンジャー』までの話は一週間の出来事だったとの事なので、同時進行で物事が起きていたとしても不思議はありませんが、シールドそのものが登場する本作が最もMCUらしい話になっているのが好印象で、長官やマリア・ヒル(コビー・スマルダーズ)の再登場や『アイアンマン2』でのトニーの天敵な上院議員(ギャリー・シャンドリング)まで出てくるので、最も理想的な話として満喫しました。
若干の不満は幾つかあります。その一つは“第二次世界大戦の時代にナチス・ドイツよりも優れた敵の勢力が居て、プラズマ兵器やステルス爆撃機を持っている”というSFファンタジーな前作から、世界を監視するシステムなどの現代的でシリアスチックな設定に路線を変更したのはいただけません。暗い時代なので、こういう設定がウケるのは分かりますが、前作にはそういうのが無く、現実には無いブッ飛んだ設定を堂々と描いて見せ、そこを気に入った自分としては、本作のシリアスチックな話は好きにはなれず、これが残念な部分です。二つ目に、ナターシャのキャラがつまらないところです。『アイアンマン2』でスターク・インダストリーズにナタリー・ラッシュマンの偽名で送り込まれ、トニーが“アヴェンジャーズ計画”に相応しい人材かどうかをチェックするという事で初登場し、敵か味方かが不透明な設定が面白く、同作公開前には「スカーレット・ジョハンソンがキャリア初の悪役を演じる」と言われ、それを信じていたので、味方だった事が明らかになった時は良い意味で裏切られたのですが、『アヴェンジャーズ』でも本作でも、最初から味方なのが明らかになっていて、出番は増えても、そこに意外性や新鮮味は無く、マリア・ヒルや本作で初登場したエージェント13(エミリー・ヴァンキャンプ)の方にそれがあり、出演者クレジットではジョハンソンの名前が二番目に出てくるわりに、それほど大した活躍もしないので、全く不要なキャラに見えました。
不満点はありますが、フェーズ2の作品のなかでは最も楽しめ、過去二作に比べると、大変満足でき、本作は「MCUは今後も面白くなる」という遺産を残したと思っているので、今後にも期待できる一作だったので、観て正解でした。